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違和感を覚えた中学、試行錯誤の通信制。
偶然の出会いを重ねて追手門探究科へ。
私は2021年の4月に転職をして追手門学院の探究科に参加したばかり。これまでに大学の助手を2年、一般企業の営業職を5年、公立中学の非常勤講師を1年、そして前職である通信制の高校で7年間、勤務してきました。教育現場に入ったのが29歳という点では、少し特殊な経歴かもしれません。教育の世界に入ってすぐ、さまざまな学校における画一的な運営方針に大きな疑問を抱くことになります。授業の内容や行事も、基本的には毎年同じで、担当する先生が入れ替わるだけ。そういった環境で生徒一人ひとりにマッチした指導ができるわけもなく、淡々とタスクをこなしているような状態にどうしても納得ができませんでした。そこで個々に合わせた柔軟なカリキュラムを構築できて、教科以外の学びも取り入れることができる通信制の高校への転職を決意。そこでは現場で保健体育を教えながら、企業との連携や、クエストエデュケーションの教材を用いるなど、今で言う“探究”的な学びのあり方を模索し、実践してきました。
追手門学院の探究科との出会いは、2020年の8月のこと。FutuerEdu TOKYOの代表理事を務めている竹村詠美さんのYou Tubeライブ配信がきっかけです。そのときのテーマは『自己表現力を身に付けることで磨かれる知力とは』というもので、そこにゲストとして招かれていたのが、探究科の池谷先生と表現コミュニケーションコースの福岡先生でした。授業内の取り組みはもちろんですが、この『O-DRIVE』というメディアで生徒だけではなく先生の活躍までも発信していることを知り「私がやりたいことをすべて先取りして実践している学校」という印象を抱きます。正直、悔しかったですね(笑)。でも同時に自分の考えにとてもフィットしているのを羨ましくも思いました。その後、偶然にも同じ研修に参加していた髙木先生と眞鍋先生に出会います。そのつながりから池谷先生とも知り合い「探究科で人材を探している」と聞きました。「今こそ、自分がアクションを起こすときだ」と感じて、参加を打診。そして今に至っています。
もともと教師という職業を意識し始めたのは中学1年生のころ。クラスメイトから「教えるのが上手」と褒められたのがきっかけです。学生時代はラグビーに熱中していたこともあり、体育大学に進学。そこで競技をつづけながら、保健体育の教員免許を取得します。ただ大学を卒業する前に当時のヘッドコーチから「学校に残ってチームの指導を手伝ってほしい」と言われ、助手という形で講義を担当しつつ、ラグビーの指導者として2年間を過ごしました。その後、転職先に選んだのは一般企業の営業職。理由は「教師は世間知らず」と言われるのが嫌だったのと、自分自身の視野を広げるためです。このときに「もし30歳になるまで教師への思いが消えなければ、また教育の世界に戻る」と決めました。企業での仕事が楽しかったこともあり、一時は忘れかけていましたけどね(笑)。それを変えたのは、社会人時代の同僚が何気なく言った「牛込さんは人を育てることにこだわりがあるね」という言葉です。それを聞いた瞬間に、忘れかけていた教師への思いが湧き上がってきて、いよいよ教師になることを決意します。
「人を育てることにこだわりがある」
という言葉に、忘れかけていた
教師への思いが湧き上がってきた
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誰のための教育なのか。それを追求し、
主役たちの背中を押す。
私はもともと追手門探究科に参加することを目的に転職しているので、この科が掲げるマインドセットには共感していました。それでも実際に働いてみると探究科メンバーの姿勢に驚かされます。いまは高校の全学年の探究を見ているのですが、1つとして同じ授業は存在しません。活動やテーマは共通であるものの、授業の内容は、各クラス、時には生徒個人に合わせて細かくカスタマイズされています。これがどれだけ大変なことかは、教師であれば誰でも容易に想像できるはずです。ただ「誰のための教育なのか」を突き詰めていくと、それが最適な方法であることは疑いの余地がありません。「生徒に届けたいものは何か」「それを実現するためにはどういった方法があるのか」ということをメンバー同士でブラッシュアップしながら追求して、絶対に妥協を許さない姿勢を崩さずに走り続けてきたからこそ、この学校の探究には他とは違う魅力があるのだと思います。
そんな探究科に参加して数ヶ月。私の役割は他の先生たちがつくった授業プログラムの案に対して、客観的な意見を述べることだと思っています。それははじめて追手門という学校にきて、はじめて探究という授業に触れる者だからこそ出来ることですからね。またこれまでの経験や人脈を活かして、企業との連携のコーディネートをしたり、生徒がより社会に近い環境で体験できる場はつくったりすることもできると思っています。とはいえ、私自身もまだまだこの学校や探究のことを知っていかなくてはいけません。それと同時に、対話の機会を極力増やすことで、私がどういった人間なのかを伝えていくための期間とも思っています。
私が大切にしている考え方の1つに“フォロワーシップ”というものがあります。ラグビーをやっていたときから、トライを決める選手ではなく、そこに至るまでのパスをつないでいく選手たちに魅力を感じていました。スポットライトが当たるのはトライを決めた人かもしれません。ただそこには必ず立役者がいます。それは教育の現場でも同じ。主役は常に生徒であり、教師はその演出家であるべきです。しかしながら旧来の学校の授業は、先生が生徒に知識を与えて“あげる”とういスタンスが強かったと思います。でも時代は変わって、教科書的な知識を得るだけならWebサイトやアプリで出来るし、そこで受けられる授業の方が現場の教師より質が高い場合もあるでしょう。その上で我々が提供できるのは、生徒が「やりたい」と感じたことを「できる」「目指せる」までつなぐことだと思います。そのために彼ら・彼女たちの背中を押してあげるのが、いまの教師には必要とされていることじゃないでしょうか。