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1日16時間。ゲーム中毒だった
高校生をアントレが変えた。
今回、創造コースの1年生に対して、2日間に渡ってEdukuriの皆さんにプログラムを担当してもらうことになり、その1日目が終わったところですね。今日はどんなことをしたの?

今日は、「創造コースにはどんな良さがあるのか」ということを自分たちでイチから考えて、それが自分の成長にどうやって寄与してきたのかを内省し、それを映像にするための設計図をつくる段階でした。
学生たちの様子はどうだった?

チームでの話し合いやテーマの設定などにも慣れている印象で、すごく鍛えられていると感じました。魅力を出していく工程もスムーズにできていて「広げすぎて収束に困る」なんてシーンまで見られましたね。
Edukuri株式会社のCEOを務める濱田氏は、弱冠20歳。
迎えうつ探究科の髙木先生。2人の関係性は、この後紐解かれていきます。
ではまず濱田くん自身にスポット当てながら話を進めていこうか。僕たちが出会ったのが、2年くらい前かな?

はい。『活育財団』という組織のサマーキャンプでした。
そうだね。活育財団は追手門ともいろいろと取り組みをさせてもらっている団体で、僕がオブザーバー兼メンターみたいなポジションで参加したキャンプに濱田くんがいたんだよね。

あれは僕が高校3年の時ですね。
僕は役割的に参加者のみんなに声をかけていたんだけど、その中でも濱田くんは積極的に発言している方だったし、印象に残っていて。あとエッセイライティングみたいなプログラムがあったでしょ?

はい。すごくしんどくて、よく覚えています。
かなり厳しく指導されるプログラムだったよね。そこで濱田くんが書いていた内容もずっと記憶に残っていたんだよ。

そうなんですか? それは嬉しいですね!
その後、僕の前職でもある『タクトピア』という教育系の企業でインターンを始めたということを代表の長井さんから聞きました。さらにそこから起業したと聞いて「頑張っているな」と思っていて。でも確か最初に会った時には、すぐに進学する予定だったんだよね?

そうです。2023年の3月に高校を卒業して、2024年の9月には『アーラム大学』っていうリベラルアートカレッジに入学する予定だったんですけど、結果的にはギャップイヤーを取得して、日本で起業することになりました。
タクトピアのプログラムとの出会いが、濱田氏の人生をガラリと変えることに。
それはアメリカの大学だよね? どうしてそこを選んだの?

僕は高校の時にタクトピアのプログラムを受講して、アントレプレナーシップのあまりの面白さに衝撃を受けました。それを学びたいと思ったんですけど、日本の大学ではアントレをしっかり学べるところがあまりなくて。「だったらアメリカに」という感じです。
なるほど。ギャップイヤーを取ろうと思ったのはなぜ?

高校卒業後に教育系の企業でインターンをしながら経験を積んで、9月にアメリカに行く予定でした。でもやってみるとその内容が面白すぎて……。高校までは時間の制限がない中で、何かを突き詰めるっていう経験がなかったので「もう少しこれをやってみたい」と思い、渡米を遅らせることにしました。
アントレの何にそこまで面白さを感じたの?

まず答えがない世界で、教えられたり与えられたりするわけではなく、自分で探すしかないという状況が、アドベンチャー感覚ですごく楽しく感じました。当時の僕はゲーム中毒で、学校の勉強に何も興味が持てず、1日のうちの16時間をゲームに費やすような生活。そんな中でアントレで実践した「身近な課題に対してプロトタイピングを回しながら、解決策を考える」というのが、ゲームと似ていて、かなり刺さったんです。しかもそれをチームでやるのも楽しくて。仲間とケンカをしながら、でもひとつの目的に向かっているっていう、その熱い環境が楽しかったんですね。
高校の時に受講した
アントレプレナーシップの
あまりの面白さに衝撃を受けた
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2年で“逆側”に。変える部分と
変えない部分で、自己肯定感を。
濱田くんはまだ高校を卒業して2年も経っていないから、プログラムを受けていた時の感覚もフレッシュだよね。僕なんか高校に通っていたのが20年以上前で、よく覚えていない部分もあるけど。早くも逆の立場というか、提供する側になった今、感じることは何かある?

まずはタクトピアのプログラムがすごく緻密に練られたものだと気づきました。授業自体は1時間ほどでも、その裏でたくさんの大人の人たちが知恵を絞り合ってできているんだということに衝撃を受けましたね。
確かに受講する側の時って、ボヤっとしているよね。

はい。用意されたものを、ただ受け入れるっていう感覚しかなくて。だからその裏まで考えないのは当然というか。
その記憶がしっかり残ったまま、プログラムを提供する側に回る人って本当に少ないと思っていて。教育実習としても普通は3年のスパンはあるからね。高校生と1〜2歳しか違わない歳でやっているっていうのは面白いなと思って、プログラムをお願いしたっていうのもある。


プログラムをつくる工程はどう? いろいろと感じることがあると思うけど。

タクトピアでインターンをしている時に、プログラムをつくるサポートを経験した上で、今は自分たちでやっているんですけど、「どうやったら生徒の皆さんの学びを引き出せるのか」ということを考えながら、かつ自分たちがいいと思っているものを織り交ぜてブラッシュアップさせていく工程が楽しいですね。
そうだよね。今日、実際にプログラムを進め感じたことはある? 構想通りに進んだのか。逆にもっとアジャストできそうとか、ここは欲張れそうとか。

授業が終わった後に先生たちとミーティングをしたんですが、「生徒の皆さんへのインストラクションをもっと具体的にしてもいいかも」というフィードバックをいただきました。やっていくうちにそれぞれの進捗がぜんぜん違ってくるにもかかわらず、全体に向けて抽象的に語りすぎていたのかなという点は、反省しています。
確かに40人に向けてやっても、一人ひとり、進み方はぜんぜん違うからね。

はい。どこにどれくらい凝るのかなど、力の入れぐらいもそれぞれなので、それを見ながら個々に合わせてカスタマイズしたフィードバックをするということが大事だと感じましたね。
当日の様子。学生たちのイキイキした表情が印象的です。
Edukuriのような教育系のサードパーティ機関の中には、どの学校に行っても、同じ目的で、同じプログラムをやるところもある中で、Edukuriはプログラムの中身や生徒たちとのコミュニケーションのとり方を、柔軟にカスタマイズしながらやっている印象があるよね。

そこは変えながらやっています。ただ「変えない」と決めているコアとなる部分もふたつ設定していて、まずひとつ目が「仲間との協働」です。チーム内で、いろいろとぶつかりながら、それぞれの妥協点とか、どうしたら気持ちよく説得できるのか、そういった部分を模索してもらいたいと思っています。
なるほど。もうひとつは?

アウトプットの質を高めるために「ひたすらやり直しをする」ということです。フィードバックをもらって、ブラッシュアップをする回転数を上げるのが大切だというマインドセットを皆さんにもってほしいですね。というのも、映像って一度編集を終えてエクスポートすると、変えるのが面倒に感じたり、悔しくなったりして、修正をしたくなくなるんです。でもそこをぶち壊すのが重要だと伝えていて。その体験を通してプロジェクトが進んでいるという実感を得てもらって、さらに皆さんの自己肯定感につなげていきたいですね。
生徒の学びを引き出せるのかを
考えながら、自分たちがいいと
思っているものを織り交ぜる
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試行錯誤と実験をしながら、
先生が苦手な部分を担っていく。
他にも「ここはもっとやれた」という点はある?

やはりある程度の経験があるからか、生徒の皆さんが話し合いとかに慣れている印象で、それは一見いいことなんですけど、本当は喧嘩するくらい熱くなることがあってもいいかなと思いました。「妥協」って大人っぽいし、ポジティブにもとれますが、高校生だからこそできるやり方、つまり本気でぶつかり合ったり、言い合ったりしながら、でもよく考えたらロジックが通ってないかなって顧みたり、そういう些細な「やってしまった感」の後の気付きってあると思うんです。
なるほど。それは自分の実体験にもとづいているの?

そうですね。僕も高校の時にビジコンとかに出る際に、熱くなって失敗するんだけど、そこから修正してJカーブ的に成長するみたいなことがめちゃくちゃありました。だから生徒の皆さんにもそういう経験をしてほしいなと思って。今日の追手門の場合は、「ザ・きれいな探究プログラム」みたいな感じで、良くも悪くもとてもきれいに進んじゃってて。もっとグチャグチャになればいいんですけど。
その考え方にはとても共感できて、その領域までいけると面白いよね。創造コースの1年生は入学してから今まで上手くいき過ぎてる部分がある。一回ポキっと折れて「じゃあ、こっち」みたいな体験をしてほしいと僕も思ってる。
高校生だからできるぶつかり合いや失敗を促すべきだったと反省の弁を述べる濱田氏。
髙木先生は学校の先生ならではの苦悩を吐露されます。
学校の先生って、それをさせるのが苦手なんだよね。なぜならベースに「失敗をさせたくない」っていう思いがあるから。生徒たちに失敗させているのが自分だって考えると、極端な話、「次の日、保護者から電話がかかってくるかもしれない」みたいに考えてしまって、及び腰になっちゃう。でも外部での組織だったら、極端に言うと「知ったこっちゃない」ってなれるからね。

はい。まあ言わば我々は“やりたい放題”というか……。
そこがサードパーティのいいところだよね。特にEdukuriの場合はまだ出来上がっていない感じがいいなと思って。生徒と一緒に成長するし、失敗もする。そういう関わり方を生徒が実際に体験するのが大事だと思う。僕なんか、気づけば授業であまり失敗できない年齢になっているというか。教育に関わる身として、“撤退戦”に入ろうとしている部分もあるような気がしていて。

髙木先生がですか? それは意外ですね。
ん〜、どうだろう。これまでは自分でもボーダーを広げてきたつもりだけど、いつの間にかあまり攻めてないなっていうのは感じているかな。自分が20代とかだったら、「これをぶっ壊して攻めないと、自分のボーダーは広がらない!」と思って勝手にやってきたんだけど、いつの間にかそれを止めていて、ギリギリのところまでしか踏み込まないようになっているというか。だからそうじゃない人とコラボしている時のプログラムの方が楽しいし、Edukuriにもいろいろと試行錯誤して、実験していってほしいな。
高校生だからこそできる
些細な「やってしまった感」の
後の気付きを与えたい
後編は3月26日公開予定です。