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自身の経験をもとに、得意と感謝を
かけ合わせて事業を展開。
では今度は会社のことを簡単に説明してもらえるかな?

はい。Edukuri株式会社といって2024年の4月にできたばかりの会社です。「クリエイティブで学びの場にワクワクを届ける」という理念のもと、「映像プロダクション」と「教育プログラムの提供」のふたつの事業を展開しています。映像に関しては、主に教育系のイベントとか学校紹介のPR動画などをつくっていて、その活動を行う中で得た知見などを活かして、教育プログラムの提供するようになりました。
なぜ「教育」という分野に特化しているの?

すでに話した通り、僕は高校の途中までゲーム中毒で、まったく勉強をしていませんでした。その状態で教育系の企業であるタクトピアのプログラムに出会い、アントレプレナーシップというコンテンツに興味を惹かれて、勉強を始めるようになります。これって教育の力だなと感じて。
なるほど。教育によって大きく変われたんだね。

はい。ゲームばかりの時は自分のことも好きじゃなかったんですが、前向きな考えができるようになって、新しいことにチャレンジしようという気持ちが生まれました。これがまさに教育のパワーであって、それを多くの人から引き出したいと思ったのがきっかけです。そこから自分が得意な「映像」と、生き方を変えてくれて感謝している「教育」をかけ合わせられるビジネスを考えました。
アメリカの大学への進学に向けたギャップイヤー取得中のedukuri株式会社のCEO、濱田氏。
約2年前、教育系のイベントで高校3年生だった濱田氏と知り合った髙木先生がお相手です。
同業他社と比べた時の強みとなるのはどういった部分?

まずは大学生世代が集まっているというところだと思います。学校現場においても、生徒の皆さんからしたら「お兄さん・お姉さん」くらいの感覚でクラスの輪の中に入っていけるというか。
確かに大人がやるのとは大きく違うだろうね。

そうですね。一緒に円陣を組んで動画をとったり、すごく自然な顔が撮れたりするので。映像の業界って、携わっている人の平均年齢が41.5歳と言われている中で、我々は全員が20〜21歳。本当に大学生か休学中の人しかいません。
平均年齢は約21歳。教育の現場にワクワクの渦をつくり出すメンバーたちです。
教育プログラムを提供するうえで大切にしているのはどんなところ?

映像って、いい感じの音楽に乗せて、いい感じの光とかを入れれば、見た目としては、“なんとなくいい感じ”に仕上がるんです。でも僕たちはその先のプロセスを大切にしていて。
「その先」っていうのは、具体的にはどういうこと?

その映像を“いい感じ”にしているのは何なのか、そしてその映像を通して「誰にどういう思いになってほしいのか」といった部分をどんどん深ぼることですね。そしてその“なんとなくいい感じ”の映像を、本当に満足できる映像まで高めるためには「自分のストーリー」が重要だと思っています。
自分のストーリーというのは?

例えば「自分にこういう経験があったから、他人にも共感してもらいたい」という思いなどですね。あとは自分自身を棚卸ししていく中で、「こういう伝えたいことがあった」とか「先生のあのひと言で変わった」とか、そういう具体的な情景とかシーンが思い浮んでくることがあるので、それを映像に落とし込んでいけた時に、“なんとなくいい感じ”を超えられるし、その過程の中で、他者を感動させたり、共感を呼んだりすることができると思っています。
“なんとなくいい感じ”を
超える過程の中で、
他者の感動や共感を呼べる
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教育の過渡期で問われる
「板書型」と「プロジェクト型」。
「教育の現場が、こうあってほしい」と感じる部分は何かある?

抽象的になってしまいますが、「学校に来るのが面白い」と思ってもらうことですね。僕自身はゲームばかりやっていて学校を面白いとは思っていなかったところに、タクトピアっていう外部の機関が来ることでたまたま出会ったアントレにぶっ刺さりました。だから学校にワクワクをつくれるのは先生だけじゃないし、サードパーティとして関わっていくことで、何か面白い影響とかいい化学反応を生み出すことができるといいですね。
当時はタクトピアのプログラムを受けたことで、授業へのモチベーションが、すべていい方向に変わっていったの?

いや、すべてではなくて、厳密に言うと「面白くない授業は面白くない」と再確認したというか。
楽しいものを知っちゃったからね。

そうなんです。ただ重要なのは、「学ぶ意味を実感できた」というところですね。それまではまったく勉強に興味がなかったのに、「アメリカに行きたい」という目標ができて、そのために「この勉強をしないと」とか「基礎教養をつけないと」っていう目的が得られました。目的が見えず、なぜ勉強をしているのか、勉強した先に何があるのかがまったく分からなかった時とは大きな違いです。
それが濱田くんの場合はアントレだったけど、違う人もいるだろうし、その選択肢がたくさんあるといいよね。

そう思います。アントレ以外にも、例えば環境保全なのか、もしくは僕たちがやっている映像なのか、きっかけはなんでもいいと思います。


逆に学びの現場で「これはなくていい」みたいに感じることはある?

ありきたりにはなりますけど、黒板を移して、暗記をして、テストの点数をとるだけのために授業を受けて、次の日にはもう忘れている、みたいなカタチはなんとか変えていければなと思っています。
その考えには基本的には賛成だけど、今、教育現場では「探究疲れ」みたいな言葉もあって。

はい。知っています。
僕は好きな言葉じゃないんだけどね。濱田くんが今言ったような“オールドスクール・ハードスタイル”と呼べるような旧来型の授業をする先生が減っていって、その代わりに「とにかくプロジェクト学習をしましょう」みたいな風潮で、全然イケてないプロジェクトをやる流れになっていて。そうやって目的も意味も見出せないプロジェクト的な活動をさせることで、学びが深まるわけでもないし、自分が活用できるアクティブスキルが増えるわけでもない。振り返っても何も残っていない、みたいなプロジェクトがすごく増えている現状があるんだよね。「それだったら板書している方がまだよくない?」とか思うこともあって。
髙木先生は、自身の学生時代と照らし合わせながら、現在の教育の流れに警鐘を鳴らします。

僕が感じているのは、今は“過渡期”というか、昔のカタチだった授業スタイルを一新しようと反対側に持っていっている時期だと捉えています。反対側に行ったからこそ、元々の方の大切さに気づくこともあって、どんどん中和されていくんじゃないかなと。だから一概にどっちがいいかは言えないですよね。
うん。難しいよね。でも僕が通っていたのはインターナショナルスクールだったけど、そこにも板書型の授業はもちろんあって、教え方がうまいなと思う先生もいたし、それから海外の大学に行ったんだけど、そこもバリバリの板書型。っていうか、大きな教室に1500人くらいの生徒が集まって一斉講義をするから板書型しかできないよね。

つまり高木先生は板書型的な昔の授業の形態を完全には否定していないってことですか?
うん。現実としてそういう授業の存在意義は残り続けるんじゃないかな。全然よくないプロジェクト型の授業をイヤというほど見てきたし、教育現場がみんな「探究だ!」「プロジェクトだ!」ってなっているのも気持ち悪いというか、違和感はある。どこがいいバランスなのかを探るためにも、やっぱり外部との連携は必要なんだと思っているけどね。
サードパーティとして
何か面白い影響や
いい化学反応を生み出したい
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サードパーティを選択した今、
生徒たちに届けたいこととは?
濱田くんが「教育」という分野に興味を抱いた時に、「学校の先生を目指す」という選択肢もあっただろうし、目指すこともできたはずなのに、他の方法をとった理由が聞きたくて。というのも、こうやって外部の企業とのコラボはすごく楽しいと感じる一方で、「学校の先生の役割とは?」というところを考えてしまって。

僕が今までにお会いした先生たちの中に、授業を心から楽しんでやっている人がいないように思えたのは理由としてあるかもしれません。決まったコマに、決まった学習指導要領に合わせて進めるっていうある種の「責務感」みたいなものを先生たちの背中から感じとってしまって……。
そういうのって生徒は敏感に察するよね。

はい。逆にサードパーティの人たちは自分たちがつくったものを、「生徒の皆さんのためにこれを届けたい!」って、言わば学校に売り込んできているわけじゃないですか? その姿勢がいいなと思って、第三者として関わるという選択をしたというのはありますね。でももちろん学校の先生のやり方が間違っていると思っているわけではないですけど。
なるほどね。ただ今の発想で役割分担をしていくと、先生になりたいと思う人は激減していくと思っちゃうんだよね。

そうかもしれないですね……。
それがすごいジレンマで。先生も楽しい部分って間違いなくあるんだけど、それを実践できる場所とか時間ってどんどん減っていて、逆に自分がやりたかったことをやっているサードパーティがすごく増えている。僕も前職でサードパーティを経験しているからこそ、そのモヤモヤは年々大きくなっているのが正直なところ。
これからの先生の輝き方と、外部機関との役割分担。髙木先生はそこに思いを馳せます。
サードパーティとしての姿勢や関わり方に魅力を感じ、その道を選んだ濱田氏。
今日は学校の先生とサードパーティっていう違う立場で語り合えるいい機会だったね。こうやって実際に話してみると思いがつながる部分もあると分かりました。実際はどうなんだろう。学校の先生とじっくり会話することとかってあるの?

あまりないですね。
やっぱりそうだよね。本当は授業をやる前に、きちんと話せるといいんだけどね。「あ、そういう風に教育で寄与しようとしているんだな」って分かるし、本当の意味でのコラボレーションになると思う。だけど、ほとんどの場合はそこまで行かずに、ゆるっとコラボして終わるというか。だから今日みたいな機会はめちゃめちゃ大事にしたいなって。

はい。僕もそう思います。
これは学校に対して否定的な意見になってしまうけど、相見積もりとか、そういうところは厳しい割に、中身の精査をしたり、教育哲学を語り合ったりみたいなことが採択までのフローとして存在しないのはもったいないと思うけどね。

確かに我々のプログラムを導入してくださった学校の先生たちと授業が終わった後に食事に行って「なんで先生になったんですか?」って聞くと、やはりそれぞれの先生の哲学が必ず出てきます。
うん。みんなそれぞれに思っているところや信じていることがあるはずだからね。
2025年には渡米を控える濱田氏。これからの活躍にますますの期待がかかります。
濱田くんが今、学校現場にいちばん届けたいことって何?

生徒の皆さんの「できた」っていう感覚ですね。それは「いい映像がつくれた」とか「アウトプットに対して拍手が大きかった」みたいなものだけではなくて、例えばつくっていく過程の中で、「チームで話し合って、大変だったところを乗り越えた」とか、もしくは「意見が混乱した時に、中立的な立場で考え方を整理するのが得意だと分かった」とか、そういう自分の中の些細な「できた」でいいので、それを積み重ねてほしいと思っています。
出来上がった映像の品質じゃなくて、自分の中の発見や気づきでいいんだね。

はい。その結果「もしかして自分って、映像以外の他のこともできるんじゃない?」って次のアクションにつながったら最高ですよね。そこからアントレにいってもいいし、そのまま映像の道に進むのもすごく面白い。そんな感じで何かを始める起爆剤としてうちのプログラムを作用させていきたいと思っています。