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“進取の精神”を持った2人のゲストが
高知から来阪し、登場。
今日は高知県にある私立学校『土佐塾中学・高等学校(以下、土佐塾)』から、お二人の先生をお迎えしました。まずは自己紹介をお願いします!
はい。僕は土佐塾でもう15年以上にわたって英語教師をやっている藤澤といいます。自分が高校生の時に1年間の海外留学を経験し、さらに大学院でも留学を経験しました。院を卒業した後にこの学校に勤めて、そのまま現在に至っています。だから『土佐塾のカルチャー』がイコール『教師のカルチャー』だと思っている部分もありました。次に出てくる野崎先生(以下、のざたん)と違う点として、教師として“ど真ん中”のコースを歩いてきたと言えると思います。
確かに僕は「今まで何をやってきたんだろう」って感じだからね(笑)
藤澤先生(以下:ふじぽん)は、学校の英語教師以外でも、いろいろと活動されているんですよね?
そうですね。まずは学校で受験指導を担当しているというのがあります。また2019年あたりに『GEG KOCHI』の立ち上げに参加しました。『GEG』というのは『Google Educators Group』の略で、教育者が集まるグループですね。当時は高知支部がなかったのですが、関東支部の方たちに「面白いから一緒にやろう」と声をかけていただいたのがきっかけになっています。それはいわばボランティアみたいなものですね。さらにコロナ禍のタイミングもあり、“オンライン”という名の大海原に出ることで、さらにいろいろな人とつながることができたという実感もあります。
僕と知り合ったのも、以前にこのメディアで取材をした『先生の学校』というプラットフォームでしたよね。
そうなんです。そこから自分自身もYOUTUBEチャンネルを立ち上げ、最近は音声コンテンツも配信していて、そこでは教育に関するハウトゥーや、その他にもさまざまに思うところを発信しています。その結果、いろんな方からお声がけしてもらえるようになって、さらに活動の幅が広がっていますよ。
ふじぽんからすでにいろいろと聞きたいことが出てきましたが、いったんのざたんに。
はい。土佐塾で理科の教員をやっている野崎といいます。僕は大学卒業後に教師となり、それから民間企業であるベネッセに6年間勤めました。その後、都会の生活に疲れたこともあって、妻の実家がある高知県に移住します。県内の私立を何校かを転々としながら、ふじぽんと同じようにいろいろなコミュニティに参加したり、先ほど出てきた『GEG』の活動に参加したりする中で、ふじぽんに「土佐塾で新しいコースを立ち上げるから」と誘われ、2020年の4月から土佐塾で働いております。
それが2021年から土佐塾が展開している『まなび創造コース』ですね。それに関しては後から聞かせてください。さらにのざたんは『会いに行けるセンセイ』という活動もやっているんですよね。それも後ほどじっくりと聞きたいと思います。では続いて『土佐塾』という学校に関しても、簡単に教えていただけますか?
はい。名前にある通り、元々は「学習塾」を起源に持つ学校で、塾から予備校、さらに学校になったという歴史があります。つまり“塾の精神を持った学校”と言える教育機関なんですよね。それが故に「生徒たちをきちんと大学に進学させたい」という思いが強い学校だと思います。
なるほど。
また、いわゆる“進取の精神”というか、高知県ということもあって“坂本龍馬的な考え方”が創設者にはあるんですね。実は創立記念日も坂本龍馬の誕生日であり暗殺された日でもある11月15日。だから「新しい世の中をつくる」といった価値観を重んじる風土もどこかにあると思います。ちなみに男女共学で、生徒数は中学と高校を合わせて1000人ほど。偏差値でいうと、高知県に私学が8校ある中で、3番目くらいに位置するんじゃないでしょうか。
そもそもお二人は、追手門学院のことは知っていましたか?
正直言って、学校のことは知りませんでした。ただ同じセミナーを受けていた探究科の池谷先生のことは一方的に知っていたんです。その後このメディアにも出ていたタクトピアの長井さんを通して、紹介していただく機会がありました。池谷先生のお話を聞く中で「こんなぶっ飛んだことをしてるんだ!」っていう驚きもあったし、この『O-DRIVE』というメディアを見て「なんだこれは!」「すごいのがあるよ!」ってすぐに学校内で共有しましたよ。そこからずっと拝見しております。
僕も同じで、学校のことは知りませんでした。ですが、先ほども少しだけ話に出てきた『会いにいけるセンセイ』の活動をやっているコワーキングスペースに、タクトピアの長井さんと一緒に追手門の先生たちが視察に来られたんですね。そこで池谷先生を紹介していただくと同時に『O-DRIVE』を教えてもらって「な、何ですか、このイケてるメディアは……!?」と(笑)
お二人とも、お褒めいただき、ありがとうございます。『O-DRIVE』をみて嫉妬したのは前の学校にいた時の僕も同じです(笑)
しかも最初はサイトのデザインのカッコよさに憧れたんですけど、取り上げられている内容をじっくり読んでみると「コンテンツ自体もめちゃめちゃ面白いじゃん!」って思ったんですよね。
『O-DRIVE』というメディアを見て
「すごいのがあるよ!」って
すぐに学校内で共有しました。
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地方の教育現場に今も残る問題。
その中で『まなび創造コース』が目指すもの。
教師生活のすべてを土佐塾で過ごしてきたふじぽんと違って、いろいろと経験した後に最近になって転職してきたのざたんは、土佐塾にどういった印象を持っていますか?
高知県の私立学校って、どこも「都市部と同じ教育をしますよ!」っていうことをアピールポイントとして打ち出すんですね。でも実際に都市部の学校に勤めた上で、高知県の学校をいくつかを渡り歩いた僕の実感で正直に言うと「ぜんぜん違うな」って思うところばかりでした。ぶっちゃけ「それ、いつの時代の都市部の学校ですか?」みたいな(笑)。そんな中で、唯一そういう違和感がないのが土佐塾でしたね。
それは具体的にはどういった部分ですか?
やはり生徒全員がタブレットを使っているし、グループワークも活発に行われています。それに校則も比較的緩めだし、生徒発信でいろいろなことをやっていこうという精神も感じられて、そういう部分が僕はすごく好きですね。例を挙げると、今年度から男女で制服のズボン・スカートの切り分けをなくして、どちらを履いてもいいようになりました。それは生徒たちのプレゼンによって校則が変わったんです。例えばそういったところですよね。ちなみに、前にいた学校へは「探究」に取り組むというお話があって転職しましたが、変えることに対しての抵抗とスピード感の差異を感じてしまい、「軽やかに動ける環境にいたほうがいいや」って。
なるほど。やはりオンラインでどんな情報でも取得できて、教育者たちが集まるようなプラットフォームもたくさんあるこの時代においても、都市部と比べた時に地方都市の教育の古さや、新しいものに対する抵抗感みたいなものがあるんですね。
それは歴然とありますね。僕は20年ほど前、大学生の時に大手予備校で進路指導を担当するチューターのアルバイトをしていました。地方の学校って、その時代と同じやり方、場合によってはもっとレベルの低いことを先生たちが生徒に与えている現場があるのが実情です。
それって例えばどんなことですか?
進路担当の先生たちが「銀行員になりたかったら経済学部にいかないとダメ」とか「出版業界に勤めたいなら、文学部にいきなさい」なんてことを平気で話していますからね。高知の学校に来て一番おどろいたのは、そういう指導がまだ成り立っているんだっていうことかな。
確かに時代には合っていないような気がしますね。
そういった旧来のやり方に対して、生徒たちは「先生が言ってることって、なんだか違うよね」「ちょっと古いよね」って敏感にキャッチしているんですよ。ただ言われ続けるうちにそれが真実のように見えてきて、最終的には「やっぱり将来を考えると、公務員になるのがいい」みたいな偏った答えに辿り着いてしまう。そういうのを高知に来てから何度も見てきました。でもそれがこの場所でずっと受け継がれ、言われ続けていることであり、なかなか変えられないんでしょうね。
つづいて『まなび創造コース』のことも簡単に教えてください。
はい。いわゆる『STEAM教育』に振り切ったことをやろうという思いでスタートさせたのが『まなび創造コース』です。2021年の4月から、24名の中学1年生がそこに属しています。
そこで実現しようとしていることと、追手門の探究科の目指すところで似ている部分がありますか?
そうですね。これまで『O-DRIVE』を見てきたり、先生たちのお話を聞いたりしている限り、見ている世界は近いなと感じる部分もありました。例えばドキュメンタリードラマ『Most Likely To Succeed』にインスパイアされていたり、アメリカのハイテックハイに視察に行って感化されたりしている点は我々も同じです。
なるほど。
あと池谷先生がつくったロードマップというか、概念図みたいなものがすごくキレイにできているなというのも感じていて、とても参考にさせてもらいました。「こういうカタチの教育を目指す」という考えを見える化したものですね。さらに探究科が“チームで動いている”という点ですね。私も2021年の4月から「総合学習主任」というポジションに就いて、中学1年から高校2年の各学年からひとりずつ選ばれた5人が集まり、ひとつのチームを編成することで活動を進めていて、そのチームをどのようにバージョンアップさせていくかというプランを1年間かけて練っているところです。もちろんその5人のメンバーにも探究科チームのことを伝えて、いろいろと参考にさせてもらいました。
具体的な授業の手法においても、共感できた部分はありましたか?
はい。例えばアートを活用したアプローチっていうのもすごく新鮮で、そこを磨いていく感覚が僕の中でピタッときたんですよね。
確かにそこは池谷先生がとても大切にしている部分ですね。
そうですよね。ちょうど私がそれに近い勉強をしていたところで、「実体験の深さがとても大切だ」という話や、お手伝いの体験、自然体験、さらに芸術や美術の鑑賞といった体験を持っている子どもがいかに強いかっていう話を聞いた時期と重なっていたんですね。だから池谷先生のその辺の感覚はめちゃめちゃ素敵だなと思って。もちろん自分の授業で真似ができるかっていうとなかなか難しいんですけど、いつもチームの中で共有させてもらっていますよ。
『STEAM教育』に振り切った
ことをやろうという思いで
スタートさせたのが『まなび創造コース』。
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現場において、教師が苦手なこととは?
それを探究チームはできている理由は??
のざたんは追手門の探究科に対してどんな印象をお持ちですか?
昨日、今日と実際に授業を見学させてもらって感じたのは、先生たちがチームを組んで、楽しそうに授業をやっているのが純粋に羨ましいなと思って。ことあるごとに先生同士が集まって、少し相談しては散っていって、また集まって、また散っていく、といった動きを授業中に当たり前のようにやっているのがとても印象的でした。これって一般の企業なら普通のことですよね。自分の仕事をやりながら、手が空いている時には周りに声をかけてお手伝いをするっていう。それがチームでやる強みのひとつのはずなので。だけど学校の先生ってそういう動き方が苦手だという印象を僕は持っていて。
確かに先生って、仕事において何か新しいものを生み出すチームにはなりにくいのかもしれませんね。僕もこの学校に来るまでは、そういうイメージを持っていました。仲はいいし、雑談もするんだけど、授業になった瞬間にその仲の良さが推進力にならない、みたいな。やはり先生って、基本的にみんな「私は私、あなたはあなた」で仕事をしているので、複数人が集まって授業の軸の部分を生み出すっていう文化がないんですよね。
でも僕の感覚としては先生だってチームで助け合う瞬間は割とあるとは思っています。例えば学年団とか教科とかでいろいろとヘルプし合って助かることがありますよね。そうなんですけど、確かに前例のない新しいことをやろうとした時に、当然ながらそういう時には対立意見が出るんですけど、それらを上手に消化しながら、これまでにないものをつくりあげるっていう作業が決定的に下手なんですよね。答えがないものに向き合うのが苦手というか。
そうですね。でも追手門の探究科の先生たちはそれを本当に当たり前のようにやっていたし、その雰囲気が生徒たちにも伝わっていたと思います。それがただただ羨ましいなと感じましたね。
先ほどからお話には出ている『まなび創造コース』には、お二人も携わっているんですよね?
そうですね。はじめのアイデアを出したのは当校の副校長先生で、その実働部隊として僕やのざたんが動いています。そもそも僕がずっと教員をやっている中で、2015年前後だったかな? 生徒たちの態度にちょっとした違和感のようなものを感じて。
違和感……ですか?
そうなんです。なんていうか「これまでのやり方が通じなくなった」というか「こっちの言葉が届いていないな」って思うようなタイミングがあったんです。
それは成績や学力が落ちたということですか?
いや、そうでもないんです。あくまで教師側の実感としての話ですね。今までだったら、できていない生徒に対して言葉をかける。すると奮起してやる、みたいなカタチで現場が回っていたんですが、そのアプローチにうまく乗れないパターンも出てきて「あれ?」と。それと同時に、学校にiPadが導入されたり、先ほどもお伝えした通り、僕自身が学校以外のところへと目を向けて、授業以外の活動をスタートさせたりもしました。今思うと、そういったところから『まなび創造コース』に向けた機運というか、土台の部分が出来上がっていたのかもしれません。
僕もそうなんですが、自分の学校の外に意識を向けると、すごくいろいろな刺激を受けるんですね。でもだからといって、そこで得たものを実際に自分の学校に持って帰って実践できるかどうかはまた別の話で。でも池谷先生をはじめとした追手門の探求の先生たちは、確実にそれができている。なぜそれが可能なのかっていう理由というか、秘訣みたいなものを教えてもらいたいなと思って。
その答えになっているかどうか分からないんですが、追手門の探究科は基本的には池谷先生が頭をとっていて、とにかく彼がちょうどいい距離感で他の5人を見てくれるんですよね。“50メートルくらいある首輪”をつけてる感じというか。しかもその首輪が空気みたいに軽い状態。
それぞれの先生が、自由にのびのびとやれるってことですね。
そうなんですよね。いい餌を与えてもらって、自分が好きなようにどんどん走っていけるし、走り過ぎたら止めてくれる。その中でそれぞれに足りない部分が見つかれば「こういう研修を受けてみれば?」といったアドバイスをくれることもあります。
そういう上司というか、リーダーとしての立ち居振る舞いが重要ってことか……。
はい。信頼してくれて、自由にやらせてくれます。その結果「こんなに任されているんだから、もっと頑張らないと」って、それぞれの先生たちは感じていると思いますよ。
授業における結果責任みたいなものは、どう振り分けているんですか?
「最後の最後は池谷先生が責任を取ってくれる」みたいな信頼感はありますね。というのも「それぞれの現場で自由にやってね!」と言われても、すべてを自由にやった結果のリスクが自分に降りかかってくるような状態だと、普通の人はなかなか好きなようにはやれません。その点、最後の責任をきちんととってくれるという安心感を提供してくれる池谷先生のような人って、意外といないと思います。
ただの“ぶん投げ”ではないってことですよね。
そうですね。ビジョンは示してもらって、定期的に共有しあっているので、「あそこに向かってプログラムをつくればいいんだな」ということが分かって、同時に「そこにたどり着くまでのやり方は、自分たちに任されているんだ」っていう自覚と責任が芽生えます。さらに「最悪、失敗しても大丈夫だ」っていう気持ちにさせてくれるんですよね。そこが大きいんじゃないかな。
学校の先生は、これまでに
ないものをつくりあげるっていう
作業が決定的に下手。
後編はコチラ。