Theme1
生徒たちが失敗を経験できるために、
先生たちの失敗を許容する大切さ。
(前編はこちら)
三原さん(以下:ナオさん)は『先生の学校』のクリエイターが集う会の中で「仮にイベントに1人しか参加してくれなくても全然いいから、やりましょう!」って僕にアドバイスをしてくれることがありました。そのように『先生の学校』という場所は、我々先生が失敗することが許されている感覚があります。同じように学校がすべきことは、安心・安全な空間をつくり出して、その中で生徒たちが恐れることなく失敗を経験し、「じゃあ次はどうしたらいいか」ということを考える。その繰り返しをやっていける場を提供することなんじゃないかなと思っていて。
その通りだと思います。私も昔は「失敗したくない」っていう思いが強かったんです。実は『先生の学校』の最初のイベントで、まだぜんぜん無名であるにもかかわらず、どこにそんな自信があったのか、500人が入れる会場を押さえちゃって。結果的には必死に集客を頑張ったけど、160人しか集まらなかったんですね。
160人でもすごいですけどね。
はい。今思うとそうなんですけど、その時は「あぁ、やっちゃった……」って思って。ただその経験があったからこそ、身の丈にあったスタートの大切さを知れたんですね。そしてもっと重要なのは、こういうイベントって集客数に目が行きがちなんですが、「その場所に何人が来ているか」より「来てくれた160人にどれだけ素晴らしいものを提供するか」っていうことの方が、数百倍大事だってことを学べました。
集客よりも“返客”の方が大事だってことですね。
まさにそうなんです。つまり失敗からしか学べないことってすごく多くて、それは生徒たちも同じだと思います。教科書に書いてあることより、やってみて分かることの方が絶対に自分の糧になっていくはずだから。もしかしたら『失敗』っていう言葉自体が悪いのかもしれないですね。失敗なんてないんです。誰だって失敗のおかげで前進できるわけで。前進のための材料なんですよね。とはいえ、やっぱり「失敗したくない」と思うのが普通だし、みんな「やってみて上手くいかなかったらどうしよう」って考えるもの。だからそういう人の支えになりたいと思って、私もやっています。
そういう風に支え合う構造が探究科のチームにはすでにあるのかもしれません。というのも、僕が今年になって探究科に入る時に、「即戦力として活躍・貢献したい」っていう思いもあって、はじめは意気揚々と乗り込んでいこうと思っていたんです。でも実際に中身を見てみると、すでに色々なものが動いていて、急に焦りはじめちゃって。
当時、「早く仲間に入り込まないとヤバいかも」みたいなことを私にも言ってましたよね(笑)
そうなんです。そんな時にメンバーたちが「そうなりますよね」「焦らなくていい」「まずは1年をかけてここに慣れてもらって、感覚をつかんでもらえれば」って言ってくれたんです。できないところはフォローをするし、力を発揮できるところは発揮してもらう。そういう安心・安全な心理状態をメンバーのみんながつくってくれたことで、僕は救われたんですね。それが本当にありがたいと思って。
素晴らしいですね。やっぱり先生が働く環境で、もっと失敗を許容していかないとだめだと思います。そうじゃないと、子どもたちの失敗を許容することは難しいから。だけど先生たちはコンフォートゾーンというか、自分の安全地帯から出る経験を本当にしていないから、やっぱり失敗するのが怖いんですよね。でも安全だと思いこんでいる場所から出る経験をたくさんしていると、今度は逆に出ていかないと不安になっていくんです。つまりどんどん挑戦したくなるっていう状態になるんですよね。
それはすごく分かります。
だからいつもいる学校からちょっと飛び出して、普段とは違う新しいものに触れたり、自分がいる場所から越境したりする機会をどれだけつくれるかっていうのがすごく大事だと思うんですね。私は『先生の学校』でそれを担えたらいいなと思っているし、そういう先生をサポートするプレイヤーがもっと増えてくれることを願っています。
自分の安全な場所から出る
経験をたくさんしていると
逆に出ていかないと不安になる。
Theme2
自前のプログラムだからできる
生徒一人ひとりを見ながらのアレンジ。
追手門の探究科では、基本的には内部リソースでオリジナルのプログラムはつくっていく方針をとっています。特に主任の池谷先生が、いわゆるプログラム屋さんから提供されるものがあまり好きじゃないみたいで(笑)
でも内製でいいと思います。本質的に生徒のことを考えている先生たちは、やっぱりオリジナルになることが多いんですよね。特にウシさんもそうだし、池谷先生もそうだと思いますが、きちんと外に意識が向けられているので。
外部の知恵を入れても、それを自分たちで運用できないと意味がないし、目の前にいる生徒たちを見ながら、現場でカスタマイズできないと意味がない。そこにはかなり重要に考えてやっています。とはいえ、やはり外の力を借りた時の短期的な爆発力も必要です。ぜひナオさんとも一緒につくっていきたいですね。
一緒にできるとすごく面白いですよね。でも私もDIYって大事だと思うんです。私がとても尊敬している経営者に、龍崎翔子さんというホテルをつくっている方がいて。彼女は東大在学中からホテルを経営していて「ホテル王になる」と公言しています。彼女の発言でハッとしたのが「ないものはつくればいい」ということ。例えば望むような保育園がないなら保育園をつくったらいいし、既存の結婚式に違和感があるなら新しい結婚式の形をつくればいい。そういう考え方なんです。
なるほど。すごいな……。
彼女のその基本的なスタンスにすごくインスパイアされている部分が私の中にあるので、『先生の学校』もほとんど自分たちでつくって、コンテンツもオリジナルなものを用意しました。それに追手門の場合は、この『O-DRIVE』の取材を通して、色々な人の考え方を吸収することもできているはずなので、それだけでウシさんや池谷先生がつくるプログラムは他の学校とは違うものになると思いますよ。
ありがとうございます。ただ借り物のプログラムが当たり前のように使われている現状も教育の現場にあります。つまりは「この一冊をやり通すことで、生徒たちにこういう力が身につきます」みたいな触れ込みのものですよね。でもそれをそのままなぞるだけの授業をやって成功している事例があったら教えてほしいなって(笑)。それに、もしそれが成功だと思っている先生がいたらヤバいんじゃないかなって思っていて。
『探究』とか『総合』って、授業内容に困っている先生がとても多いから、そういうものに食いついちゃうんでしょうね。
はい。生徒1人1000円で選べる教材、みたいなものがすごく使われていますよね。でもそれが一人歩きすると、その通りにこなすこと自体が目的になっちゃって、生徒一人ひとりを見なくなってしまう。とりあえず教材に書いてある通り「これを1時間でやってください」ってなって、とにかく終わらせることがタスクになっちゃって。
う〜ん、確かにそれは良くないですね……。
追手門の探究の授業は2コマ連続でやっているので、例えば1コマ目が終わった時に「生徒たちが没頭しているから、もう1時間やらせた方がいいな」とか「2コマ目の内容は、次週に回せばいい」といったように、現場で生徒を見ながら調整していくやり方をとっています。「今はつくることに集中しているし、ここで解説を入れる予定だったけど、このまま続けさせよう」といった感じで、その場で簡単にプログラムを変えてしまうんですね。きちんと生徒たちを見ながら「このタイミングで最適なのは?」っていうことを常に考えながら授業を進めていて。これはなかなか普通の学校ではできないことで、本当にすごいなって感じました。
目の前の生徒をよく見ながらプログラムをアレンジしてるってことですよね。それができるのが、自前のプログラムの良さだと思います。やっぱりお店で用意された料理ってすごく立派で美味しいんだけど、お家で一緒につくって一緒に食べた方が格別に美味しいよね、みたいな感覚があるんですよね。
ナオさんがプログラムをつくる時も「こんなのどうですか」ってポンって渡すだけじゃなくて、「一緒につくっていこう」っていうイメージでやってますもんね。
そうですね。現実として外部の教材に頼らざるを得ない学校もあるので、その時にいかに良質な教材、そしてきちんと“思い”が詰まった教材に出合わせてあげられるかを大切に考えています。ここでも重要なのは、選択肢ですよね。「これでやってください」って押し付けるんじゃなくて、「いろいろと置いておくので、ご自身の学校に一番フィットしそうなものを選んでください!」って気持ち。ぜひ今度、追手門の探究科、取材させてください。プログラム、勉強させてほしいです(笑)
もちろん、ぜひお願いします!
お店で用意された料理は立派だけど、
家で一緒につくって食べた方が
格別に美味しい、みたいな感覚。
Theme3
大切なのは広報力より商品力。
学校を愛する先生のエネルギーは凄まじい。
前職で広報に携わっていて、現在もご自身の『先生の学校』を広げていくためにさまざまに取り組んでいるナオさんですが、学校の広報に関してはどういう考えを持っていますか?
広報って意外とシンプルに考えられるもので、結局は「商品力×広報力」なんですよね。だから『先生の学校』で言えば、まだまだ1年も経っていないガッチガチのスタートアップ状態なので、「広報力」よりも「商品力」に磨きをかけているフェーズ。それは雑誌『HOPE』もそうだし、イベントもそうです。そして実際にやってみて感じるのは、商品力を磨けば、放っておいても意外と認知されるってことですね。その上で起爆剤として広報力を乗せる。それでいいと思います。
なるほど。確かに「商品力」の方が軽んじられがちですね。
そうなんです。中身がくだらないものだったら、商品力はゼロ。するとそこにどれだけ広告を投下しても、効果はゼロなんです。ゼロになにをかけてもゼロだから。前職でも「メディアに出して!」というオファーをたくさんいただきました。「広報の仕事ってメディアを捕まえてくることでしょ?」みたいな感じで「テレビに出して!」「雑誌に掲載させて!」って。正直言って、出そうと思えばいくらでも出せるんですけど、やはり大事なのは中身なんです。でも企業の方もそうだし、学校の方もそうかもしれませんが、短期的な成果がほしいから、商品力より広報力の方に目が行っちゃうんでしょうね。
確かにナオさんは、学校の広報をお手伝いする時も、実際に足を運んで判断をしていますもんね。
はい。いろいろな学校から業務委託で広報の相談を受けますけど、自分がその学校のことを好きになれなかったら、すべてお断りしています(笑)。情報が伝わりにくくなっている今だからこそ「その情報を誰から聞くか」って本当に大事なんですよね。心からおすすめできないと絶対に言葉に嘘が出るし、「この学校、めちゃめちゃいい!」って本気で思っている先生が持つエネルギーの凄まじさを私はよく知っています。そこをどれだけ丁寧に扱うか、そしてそういう先生たちといかにコミュニケーションをとっていくかが広報の大事な仕事なんです。むしろやるべきことは、それだけと言ってもいいんじゃないかな。
なるほど。じゃあ広報的な観点からも、現場の先生たちが大事ってことですね。
そう思います。ずっと学校の広報をやってきた中で感じるのは、もっとも大切にすべきなのは働いている仲間、つまり先生なんですよね。その次に生徒っていう順番で考えていいと思います。学校をつくっている人が強いエネルギーを持つべきなので、まずその人たちに「この学校で働いていてよかった」って思ってもらうこと。私はずっとそこに力を注いでいました。その次に生徒に「この学校に入学してよかったな」と思ってもらう。そうすれば先生が先生を呼んでくるし、同じように生徒も兄弟や部活の後輩を呼んでくるから、採用にも生徒募集にも困らない構造ができあがります。もちろん短期的には数字を求められるから広告もやりたくなるんでしょうけど、それよりも中身なんですよね。
それは探究科の先生同士でもよく話すことですね。教育は広報がなくてもできるけど、広報は教育がないとできないわけで。まずはどこにお金をかけるべきかっていう。でもなかなか学校側には伝わらない部分も多くて……。
それって学校のことを心から愛している人じゃないと気づきにくいのかもしれません。ただ雇われているだけとか、仕事としてやっている人だと難しいですよね。だからこそ今いる先生や生徒を大事にして、きちんとコミュニケーションをとっていくのが重要なんですよね。そういう意味で、この『O-DRIVE』っていうオウンドメディアは本当に素晴らしいと思いますよ。生徒もそうだし、先生にもきちんと取材をして。これをやるのが本当に大事なんです。生徒たちは「これに載った!」って胸を張って言えるメディアだし、保護者も嬉しいし、先生も嬉しいですよね。単純にサイトもめちゃめちゃイケてるし、こんなの他に見たことがないですよ。本当に最高の取り組みだなと思って。
そうなんですよね。僕もはじめて『O-DRIVE』を見た時には、「先を越された!」って悔しい思いをしました(笑)
今後の展望としてはどういったものがありますか?
まずは先生たちをエンパワーメントすることで、先生の人生、そしてその先にいる子どもたちの人生を豊かなものにしたいっていう思いがあります。そのための影響力という点で『先生の学校』もまだまだなので、この3〜5年は“広げていくこと”に力を入れたいです。そうすればその先にいろいろとできることが増えると思うので。例えば教員養成なんかもできるかもしれない。実はやりたいこと、たくさんあるんですよ。
すごいなぁ。どこからそんなエネルギーが出てくるんですか?
本当ですよね(笑)。私、先日37歳になったんですけど、36歳の誕生日を迎えた時に、「あ、干支を3周した!」「同じように3周したら72歳。もう折り返しだ!!」って感じたんです。そこで「もう自分のために時間を使うのはやめよう」って決心して。それまでは散々自分のために使ってきたので。「誰かのために自分を使う」と思ったら、どんどんエネルギーが沸いてきますよね。あれもやらないと、これもやらないと! って。
『スマイルバトン』という会社名に込められているのも、同じような気持ちですか?
そうですね。次の世代も、その次の世代も、受け取って思わず笑顔になっちゃうような社会をつくって、それを渡したいっていう思いで命名しました。あと私、遅咲きなんです。本当の意味で「自分を生きる」っていうことができたのって、30歳を過ぎてからじゃないかな。だから「青春を取り戻している」っていう感覚があるのかもしれません。
あ、それは分かるなぁ。僕も同じかもしれない。いま青春をやってる。
一緒ですね(笑)。誰だって「自分を生きる」っていうことができれば、吸収力もうまれるし、エネルギーは自然と沸いてきます。そのことを子どもたちに届けたい。そう思っています。というのも、先生たちから聞く今の子どもの姿って「やる気がない」とか「授業中に眠そう」とか「勉強がつまんない」みたいなことが多くて。でももともとそうだったわけじゃなくて、何かしらの原因があって、そうなってしまっただけだと思います。だからそれを自然な状態に戻せるところまでやれると嬉しいですね。
広報においてもっとも大切なのは
学校をつくっている先生。
その次に生徒の順番。
(おわり)