一般社団法人 未来の先生フォーラム 代表理事 宮田純也

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INTERVIEW

2023.08.18UP

自分で探し、自分で選ぶ。誰もがよりよく生きる社会のために。(後編)

PROFILE

宮田純也

一般社団法人 未来の先生フォーラム 代表理事

早稲田大学高等学院、早稲田大学教育学部 教育学科 教育学専攻 教育学専修卒業、早稲田大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。 
日本で初めてオルタナティブスクールの設立と運営に関する調査を行い、修士号を取得。2日間で延べ約3000人が参加する日本最大級の教育イベント”未来の先生フォーラム”創設や2億7千百万円の奨学金設立など、様々な教育に関する企画や新規事業を実施。
株式会社未来の学校教育 代表取締役、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員などを務める。
編著に『SCHOOL SHIFT』(明治図書出版)、監修に『16歳からのライフ・シフト』(東洋経済新報社)

INTERVIEWER

池谷陽平

探究科 Driver

Theme1

時代に合わせて変わりゆくこと。
変わらないこと。

現在宮田さんは、実際の学校に訪れることで、教育の現場を見る機会もあるんですか?

ありますよ。見学させてもらうこともありますし、授業をお願いされることもあります。依頼される内容としては、コミュニケーションやプロモーションに関する話、そして「PRっていうのはこういうことだよ」みたいなものもあります。あとは社会がここからどのように変わっていくかといったテーマでお願いされることもありますね。

なるほど。現場を見ていて、どうですか? 昔と変わったと感じる部分など、あるんでしょうか。

はい。僕が今の事業活動を始めてすでに7年が経ちましたが、その間だけでもかなり変わってきたと思います。先生たちの厚みが増したというか、指導法や思考にも多様化が進みました。さらにそれを受け入れる社会的な風潮もあるんじゃないかな。

教育の現場である学校にも足を運ぶ機会があると話す宮田氏。

池谷先生は、“学校の外”にいる有識者の声を積極的に取り入れます。

より具体的にはどういった変化ですか?

ひとつあげるとしたら“自立”ですかね。これまではどこかで「国・文科省がしてくれる」もしくは「学校がしてくれる」みたいなお客様目線の先生や学校関係者が多かったように思えます。そこが変わったような気がしますね。

それはありますよね。コロナも関係しているのかもしれません。

僕もそう思います。国の体たらくっぷりを見て、もしくは昔と違ってSNSなどマスメディア以外のところから政治家の不祥事なんかが簡単に暴かれるようになって、みんなが「あれ? あいつらもそんなにすごいやつじゃないのか?」って感じるようになったと思うんですよね。そこから「国に頼っていても仕方ない」とか、サラリーマンだったら「会社に頼っていても仕方がない」といった一種のニヒリズムのようなマインドが育つようになったのではないでしょうか。

その結果、自立を志す人が増えたということですね。

そうです。誰だって自分がよりよく生きたいと考えているはずなので、『ウェルビーイング』という概念も社会的に盛り上がりを見せていますし、SDGsなんかも同じだと思います。さまざまなことに対して、フレンドリーであろうという感覚をみんなが持ち始めて、それに伴って自立した人間になりたいと感じたり、先生だったら教育者として自立したい、もしくはそういった人物を育て上げたいと感じたりする主体性のある人が多くなっていると思います。

互いの教育観をぶつけ合わせ、昇華させていく2人。

僕もそういった変化は感じつつも、変わりそうで変わらない部分もあるなと思っています。例えば僕たちは「オリジナリティ」というものを大切に考えていて、それがあってはじめて他者と協働できたり、自分なりに社会にタッチできたりすると思っているのですが、これがなかなか広がらない。どうしても「それって受験において、どんなメリットがあるの?」みたいなところに意識がいく生徒や保護者の方たちがまだまだ多くて。

う〜ん、それはそうでしょうね。

大学生の会社選びもそうですよね。他の人との競争とか比較の中で、ただ偏差値の高い学校を目指す受験と同じように、「大手企業だったらどこでもいい」といった感覚で就職活動をする人が多くて、“探す”という行為をしていない。そうすると宮田さんが言ってたように、自分を押し殺しながら、“働いている”というより“働かされている”感じで、それ気づくことすら仕事をしている人が増えていきます。それは幸せだとは思えません。

それに関しては、私は共産主義者ではありませんが、カール・マルクスの主張を援用して話をすると、実はマルクスは世間的なイメージとは違って、労働の本質を“創造的な行為”だと位置づけています。つまり仕事は受動的な消費・生産のプロセスではなく、積極的な自己実現と社会貢献のプロセスだということ。これは仕事に関する大きな意義のひとつですよね。そしてそのために重要なのが主体性です。主体性があるからこそ、真に自立できるわけで。改めて自らが持つ社会貢献性とアイデンティティを問い直し、一種の流動性を日本社会で高めることが大切だと思います。つまりは、人生はいろいろ。どんな仕事をしてもいいということですね。

そうですね。有名企業や大手企業に入ることだけが大切ではない。

はい。自分に合っていない環境で、我慢しながら働いて、生産性を下げて、うまくいっている人を妬んで足を引っ張るみたいな人、企業にもたくさんいました。僕が新卒で勤めた会社は、本当にそんな空気がたくさんあったと思います。それって本人だけじゃなくて、周りの人も幸せにしないですよね。本当にヤバい空気だなといつも思っていましたね。それを打破できるような社会にしたいっていうのは、今の僕にとって原動力のひとつになっているかもしれません。

先生たちの厚みが増して
指導法や考え方に
多様化が進んだ。

Theme2

何かに貢献すれば、お金になる。
シンプルな経済観を学校で。

会社員も教師も、職場が自分に合っていないと思ったら、どんどん転職をすべきというのが宮田さんの考え方ですね。

はい。僕は大学の時にマックス・ヴェーバーの名著『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を読んで、すごく面白いと感じました。あの本には「プロテスタントは神から何かしらの使命を与えられている」といったことが書かれています。それを探すのが正しいことなので、転職は何回でもしたらいいんですよね。

つまり“ミッション”ですよね。それがいつ見つかるかは分からないから、見つかるまで何度も試せばいいと。

その通りです。職場で活躍できているということは、神から与えられた使命を全うしようとしている状態。逆にうまく行かない環境にいるのであれば、他のどこかで神の使命に出会えるから、次の場所へ行くべきです。社会により多くの貢献をすることが“いい仕事”だと考えられるので、アメリカの人ってどんどん転職しますよね。でも私が新卒の時を思い返しても、早期に会社を辞めようものなら“社会不適合者”みたいなイメージがありました。

そういう感覚はたしかに残っていますよね。

これから人生100年時代を迎えるので、生きていく中でのライフステージの変化がより一層たくさん起こります。寿命が短かった江戸時代など、人生におけるゴールデンタイムが20年くらいだった時代もありますが、それが3倍近くになっていると言っていいかもしれません。誰もが「このままでうまく生きていけるかな」って心配になる中で、一つの価値観にしがみついて生きていくのは難しいと思います。

自身が輝ける場所を探すべき。宮田氏の語気も強まります。
その“探す”という行為をさせてないことが問題だと考える池谷先生。

もちろん安定した大手企業に勤めて、そこで活躍して、いろいろな人に貢献し、感謝もされて、そのまま終わるっていう形に何か問題があるわけではありません。ただそうじゃないのであれば、その道から降りて他を探した方がいい。でもそういう行動を起こす勇気や自信がない人が多いから「自分には家族がいるし」とか言いながら残業ばっかりして、結果的に組織全体が淀んでいく。しかも家に帰ると娘に「お父さんの顔なんか見たくない!」とか言われたりする人もいるみたいで。ほんと、なんのための人生なんだっていう(笑)。つまり、今は「ウェルビーイング」という言葉が各所で見受けられますが、結局は自分や周り、社会の「ウェルビーイング」を実現できる形がいちばん理想的ですよね。

学校においても同じことが言えますね。例えば部活。野球をやりたいと思って野球部に入ったとしても、試合に出られるのは9人だけです。それこそ甲子園に出るような強豪校だと100人以上の部員がいて、ほとんどが試合に出られない状態。でも部活って辞めにくい空気があるんですよね。

確かにそうですね。

そもそも学校や親が、子どもたちに「自分が活躍できる場所を、自分で探す」ということをさせてこないことが問題なんですよね。それなのに高校を卒業するくらいのタイミングになって、いきなり「あなたの夢はなんですか?」「本当にやりたいことはなに?」とか「そこから逆算して考えましょう!」とか言い出します。今まで考えさせてなかったのに、いきなり突き放す、みたいな。大人のそういうマインドセットはまだまだ残っていますよね。だから子どものうちから、探す、そして選ぶ、ということをさせないといけない。

僕も同じ問題意識を持っていますね。大切なのは自立したアイデンティティを主体的に築くことで、やはりそのためにはまず大人が変わらないといけない。でも学校の先生も終身雇用的な考えが根付いているから難しいのかもしれないですね。とはいえいろいろな経験をする先生も増えてきているのも事実です。さっきの“使命”にも紐づく話ですが、けっきょく「なんのために生きているのか」っていうのを問い直したうえで、自分がその中でどう生きるのか、ですよね。そこを突き詰めると考え方はシンプルで、どんな仕事も、誰かが何かに貢献することで、それがお金になるだけなんです。だから企業に入って、言われたことをやるだけが仕事じゃない。もっと規模を小さくしていけば、個人でも社会的な価値をつくって、生活することは十分可能です。そういった勤労観や経済観みたいな部分も、学校で教えてあげられるといいですよね。

それはめっちゃ思います。その部分を伝えられないから「好きなことを仕事にできる人なんか、ほんのひと握りだよ」とか大人は言っちゃうんでしょうね。

そうですね。だから会社や部活を辞めたい人は「だってマックス・ウェーバーの本に、こう書かれてる」って言えばいいですよ(笑)。つまり、人には神から使命を与えられててね、みたいな。ちなみにアメリカに寄付文化が根付いているのは、そういう側面もありますよね。自分が恵まれているのは神の使命による恩恵であり、“与えられた富”なんだと。それを寄付に回すのは、自らに与えられた義務だっていう。日本は極端にそういう考えが乏しいような気がします。「勝ったのは私がすごいから」って考える人が多くて。少しおこがましく感じますよね。

これといった宗教がないこともあるかもしれませんげ、実は日本ってすごく個人主義なのかもしれないですね。

はい。日本人は人に優しくない部分があると思いますよ。

なんのために生きているのかを
問い直したうえで、
その中でどう生きるか。

Theme3

リアルとオンライン、そしてメディア。
思いを伝え、広げていく。

最後に、近い将来、こんなことをやりたいと考えているものはありますか?

それでいくと、文字メディアはやりたいと思っていますね。そこはこれまでやってこなかったので。本を出す過程で、書くのが楽しかったっていうのもあります。

文字はいいですよね。レポートのカタチでイベントを残していくこともできますし。

そうなんです。イベントは細かく考えぬいて作り込んでいる部分があるので、そういったことも伝えたいですよね。

それぞれのアプローチで“未来の先生”を模索する2人の活躍にこれからも注目です。

もちろん『未来の先生フォーラム』自体にもこだわっていきたいと思っています。

それは規模なのか、質なのか、両方なのか、どう進化させていきたいですか?

まず規模感は大きくしていきたいですね。コロナもあけて、オンラインだけでなくリアルもできるようになりました。今年はリアルの方にエネルギーを注ぎすぎて、オンラインのコンテンツが少し少なくなってしまって。そこを同じくらいにしたいなと。

リアルとオンライン、そしてその裏側や思いの部分を発信するメディア。いいですね!

はい。出版して思ったのは、自分で考えたことを伝えて、それにリアクションをもらうのって、とても楽しいということ。今日、池谷先生と話した内容は、今年私が出した『SCHOOL SHIFT』『16歳からのライフ・シフト』という2冊の本を読んでいただければ、より理解が深めていただけると思います。そうやって互いに伝えながら、学び合っていけると、すごくおもしろいですよね。

分かりました。コミュニケーションの場としての『未来の先生フォーラム』、ますます広げていってください。楽しみにしています!

互いに伝えながら
学び合っていけると
すごくおもしろい。

INTERVIEWER'S VOICE

池谷陽平

宮田さん、お忙しい中ありがとうございました!まずは今年の『未来の先生フォーラム』が大盛況で終わりますように。そして、「スクール・シフト(明治図書)」「16歳からのライフシフト(東洋経済)」が多くの人に読まれることを願っています。常に違う切り口で世界を見てきた宮田さんだからこそ、気づいていることがある。なかなか見えないものだけど、みんなが見ようとしないといけない。ともに未来を創っていきたいと感じました!

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