タクトピア株式会社
代表取締役・ラーニングデザイナー
長井悠

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INTERVIEW

2021.01.27UP

探究するチカラで、生徒全体に向けた豊かな土壌形成を(後編)

PROFILE

長井悠

タクトピア株式会社
代表取締役・ラーニングデザイナー

茨城県と千葉県で育つ。東京大学にて藝術学(音楽社会学)を専攻、修士課程修了。IBM社にて戦略コンサルタントとして活動した際、リーマン・ショックによって日本の産業界が激震した様子を目の当たりにし、根本の課題は社会と教育のズレにあるのではないかと思い至り、2010年に「新しい学びのクリエイティブ集団」を標榜するハバタク株式会社を創業。2015年、当社の一部門であった教育事業をタクトピア株式会社としてスピンアウトし代表取締役に就任。グローバルとローカル、双方の視点(グローカル)をもったリーダーを育てるというミッションのもと、経営と現場の両軸で国内外を飛び回っている。教育(学ぶ)と産業(働く)が渾然一体となった、21世紀型の「より良い生のための生態系」構築を目指している。

INTERVIEWER

髙木草太

探究科 Designer

Theme1

暗中模索の中で貫く
答えのないことに向き合う姿勢

(前編はこちら

追手門の探究科では、どのようにして授業プログラムをつくっているんですか?

探究科主任の池谷先生が「D・R・I・V・E」の頭文字に単語を当てはめることでつくったマインドセットをベースに会議を行うことで、1回1回のプログラムをつくっています。でも、そこで出来上がったものを授業でやってみると、失敗に終わることも多々あって。その失敗に対して、またディスカッションをしながら次のプログラムをつくっていく。それを毎回繰り返してやることで、探究チームの先生同士の視野が重なってきたと思います。

なるほど。やっぱりそれくらいじっくりとやっているんですね。「感受性」や「自己認識」といった部分からの掘り起こしを含めて、ここまで丁寧にやっている学校は、全国を探しても追手門以外にないと思います。だから追手門の探究科の先生は、僕も本当にリスペクトしていて。そこの重要性を理解している先生がこれだけいるっていうのは、本当にすごい。

それも今言ったようなプロセスを1年間やり続けた結果としてできるようになってきたのかもしれません。でも先生同士でつくられるチームとしては、全国の学校の中でも一番いい状態だと思いますよ。そこは自信がありますね。圧倒的にいいチームだと言い切れます。

そっか。プログラムをつくる工程の中でチームワークが育まれていたんですね。

授業のプログラムを生成する上でベースとなるマインドセット。「ABOUT」ページより。

僕がタクトピアにいた頃も、同じようにプログラムをつくっていましたが、その時はチームというより一人でつくることが多くて。もちろん周りに壁打ち相手はたくさんいて「もういいよ!」って思うくらいのフィードバックを受けつつでしたけどね(笑)。10を言えば150返ってくるくらい、タレントが揃っていたので。

そうですね。タクトピアのやり方はデザイン会社とかと似ていて、クライアントごとに担当を決めているので。「この案件はAさんがメイン」、「こちらの案件はBさんがメイン」といった感じ。その上でみんながアドバイスをしていきます。

だからタクトピアのメンバーは、みんなある程度の自信や自負心を持っていたと思います。逆に今の追手門の探究チームはそうではない。なぜなら誰も答えを持っていない状態だし、答えがないことに対する不安だって当然ありますからね。本当に暗中模索しています。だからこそ全員で丁寧にディスカッションをしていかないとプログラムはつくれません。でもそこが面白いところですよね。

なるほど。

だから先ほども言ったとおり、こちらの思い通りにいかない授業もまだまだたくさんあって。でもそれは別に大きな問題ではないし、むしろあって然るべきだとすら考えています。というのも100点を求めるということは、暗中模索をしなくなるということだし、それはつまり“答え”に頼ってしまうってことであり、そうなると本筋からは外れていく。我々のチームはこれからも失敗をするし、その失敗を踏まえて、また次の会議へと進んでいくと思います。

素晴らしいですね。

探究科チームは日本の学校の中でもっともよいチームだと言い切る髙木先生。

そんな追手門探究科講師チームに対する長井氏のリスペクト具合も相当なもの。

すこし偉そうな言い方になりますが、僕自身、いろいろな学校にいって打ち合わせをする中で、ほんの30秒ほど話せばその学校がどういうマインドセットで、どういう取り組みをしているのかが分かります。そうすると、やはり違和感を覚えざるを得ない学校もあって、我々も悔しい思いをすることもありました。

違和感ですか?

うん。本来は、やはり答えのないことをやろうとしているからこそ、我々が必要とされているわけですよね。僕が起業したばかりの頃は、いわば“クレイジーな”クライアントが多かったからこそ「答えがないことを、ゼロからつくっていく」という価値観が共有されていたんですけど、今はもっとクライアントが一般化していったっていうか。その結果、コアな部分が共有しにくいという現状がうまれていて。

あ、なるほど。

でもタクトピアとしては、教育業界全体にインパクトを与えたいからこそ、直感的に気の合う学校とだけお付き合いをしていたら、そのゴールは達成されない。そこが難しいですね。そういう点で、追手門の特に探究科の先生たちとはいっさい違和感なく話ができるし、いいかどうかは別として、「学校に来ている」という感覚すらあまりありません(笑)。やはり普段から答えのないことに向き合っている方々なので、タクトピアとの相性もすごくいいんでしょうね。

ありがとうございます!

でも、今後は教育全体がその方向へと進んでいくのは間違いなくて、追手門のように先生たちがそういう姿勢でいることは非常に重要です。社会的にそれが求められているのは明らかですから。今後、日本中の学校が「探究」というキーワードで何をやるべきかという壁にどんどんぶつかっていくと思います。でもその結果、大多数はお茶を濁すような授業内容に終始するしかないと思うんですね。そんな中で、追手門の取り組みはやはり抜きん出ていると思いますよ。

探究科の先生たちは普段から
答えのないことに向き合っているので
タクトピアと相性がすごくいい

Theme2

スキルではなくマインドセット。
ベースとなるチカラを養うために。

プログラムを受講したことによる生徒たちの成果を、タクトピアではどのように測っているんですか?

そこはすごく難しいですね。まず今さらではありますが、我々の会社名は「タクトピア」といって、「タクト」つまり「指揮棒」という言葉が入っています。ここでの「指揮棒」は、自分自身の人生をリードしていく主体性といった意味です。「ピア」はユートピアの「ピア」。つまり「指揮棒を持った人の理想郷になる」という意味です。ということはつまり「この生徒は、自分でタクトを持って行動できるようになった」と思えれば、僕たちとしては成果が出たと判断しています。

それはもう少し具体的に言うと、どういう状態でしょう。

はい。よく言われるような「海外の大学に入った」というのももちろん成果に当てはまりますが、それだけではありません。その他に、実際に起業した生徒もいるし、自分で何かしらのプロジェクト立ち上げに参加した生徒もいます。さらに学校内での様子に限っても、何かの教科の面白さや重要性に気づいて、爆発的に勉強し始める生徒もいて。だから本当にさまざまなカタチの成果があるんですよね。

でも「海外進学に向けた塾」的なものだと思われがちですよね?

本当にそうなんです。そこが悩ましい……。「世界」や「グローバル」といった概念は、単に学びの手段でしかありません。にもかかわらず、どうしても成果を分かりやすく把握しようとすると、「Do」、つまり「何を為したか」「できるようになったか」に注目が集まりがちなんですよね。でも、その手前の段階として、 「Be」つまり「どう在るか」「在りたいと思っているか」の方が大事 だと思っています。

タクトピアが提供する“成果”は、本当にさまざまなものだと語る長井氏。
探究においても、それ単体で成果を測ることはできないと髙木先生は語ります。

成果というものに対する考え方に関しては、探究でも同じことが言えます。仮に生徒たちに目に見えるような成果が出たとしても、それは探究だけの成果ではないとも思っていて。なぜなら探究って縁の下の力持ちというか、ベースの部分だから。

はい。とてもよく分かります。

探究で培ったベースの上に、特定のジャンルのスキルが乗っかって、そのスキルを使って活躍する生徒が出てきたとします。その場合、称賛されるとしたら探究ではなくそのスキルを与えた人たちのはずなんですよね。もちろん我々としてもそれで構いません。ただ探究で培ったチカラがベースにあったからっていうのを少しでも思ってもらえれば嬉しいですけどね。

完全に同感です。けっきょく探究で培えるのは、スキルっていうよりはマインドセットですからね。

そうなんです。特に追手門では「学校全体が探究である」という価値観がベースとなっているので、余計に探究の授業単体で「こういう成果が出ました」とは考えにくくて。やはり他の教科とは切り離せないはずなんですよね。にも関わらず、それらを別のものと捉えて「探究をやることで、どういった成果が出るんですか?」と聞く人がいるのであれば、それは探究のことをきちんと理解してもらえていないのかなと。

つまり変な言い方にはなりますが、探究科がなくなった状態こそが探究科としての理想の状態ってことですよね。それはタクトピアも同じです。今タクトピアがやっていることが必要とされなくなった時がゴールなんです。すべての学校に浸透した時には、やる必要がなくなるわけですから。その時には我々は次のステージに向かっているはずです。

そうですね。極端な話、追手門においては数学だって探究だし、国語も英語も探究だと思っています。すべての教科が多様な学びのスタイルを導入できれば色んな生徒が活躍できますしね。「探究の授業はいらなくない?」というのは、それがなされてからの議論だと思います。

極端な話、追手門においては
数学だって探究だし、
国語も英語も探究だと思っている

Theme3

環境の中の学びに、
いかに学校の要素をブレンドするか。

来年度は、追手門とタクトピアの共同プロジェクトが始まります。

そうですね。何をするかっていうと、国内を舞台とした“探究旅行”です。コンテンツとしては、課題を抱えているフィールドに生徒たちが実際に飛び込んでいって、現地の方々と協業しながら解決を考えていくものになります。

探究型の修学旅行ですね。

うん。いわゆる観光的な要素はまったくない予定です。コースごとに行き先は変えますが、例えば秋田県には、深刻な少子高齢化問題があります。その中で、人口1万人にも満たない小さな町に行き、実際にそこに住んでいる方と高校生が膝を突き合わせて問題解決に向けた取り組みを行う予定です。

しかもその旅行は、探究科が実施するプログラムとしてやるのではなく、学校として取り組むものという位置付けです。つまり学校全体が探究型の学びをやっていくという宣言にもなっている。そうやって広がっていくのは素晴らしいなと思います。

そうですね。これまで海外研修もたくさんやってきましたが、同じくらい取り組み甲斐のある課題が日本の地方にもあります。それに向き合うことで、想像力を広げたり、実際に行動を起こしてみたりして、さらにそれに対するフィードバックが直に来る、みたいな。海外と比べてもまったく遜色のないフィールドなので。

そして生徒たちは現地で5日間を過ごす予定ですが、その事前と事後のすべてをやっていくんですよね。

そこもポイントです。現地にいる間だけがプロジェクトではありません。来春、学年が変わったあたりから、現地の人たちとつながり始めて、準備を進めていきます。

秋田に加えて、高知県も候補になっていますね。

高知という場所は人口問題ももちろんあるんですが、もっと掘り下げると、山地率が89%と日本で最も高いところなんですね。そうなると、竹が生えすぎていたり、木がありすぎたり、「樒」という仏具に使われる木が、刈れば売れるにも関わらず放置されすぎていたり……。そういう課題がもう無数に出てくる。でもそれらは課題なんですが、実は“お宝”でもあって。そういう場所に高校生が入っていくわけです。

これからも2人の、そして2チームの深いつながりは続いていきます。

では最後に、今後、学校教育というものは、どういう流れになると感じていますか?

極端な話をすると、今のように教室や校舎を持たない形態も出てくるのかなと。というのも教育って「コンテンツ」ではなくて「環境」だと思っているので。人々が暮らしている環境の中に学びは散らばっていて、その中で「探究したい」と思ったときには、さまざまなリソースにアクセスできる状態であり、知らないうちに学べている、みたいなのが究極の世界としてあると僕は思っています。つまり例えば、近所の大学生のお兄ちゃんから化学を学び、同じく近所のおばあちゃんから編み物を学ぶ。そこには海外の方もいて、知らないうちに各国の挨拶ができるようになっている……みたいな。

なるほど。

もちろん現在でも「コミュニティースクール」や「開かれた学校」というカタチでそれに近いものが見られますが、さらに分散していっていいんじゃないかな。それこそ先生という職業も、他のことをやりながら週3で先生、みたいな人も出てくるかもしれません。

ってことは、今の形態の学校という存在は必要なくなるっていうことですか?

いえ、その環境において、学校の要素をいかにブレンドしていくかってことですね。そのレベルの未来の教育を、追手門の先生たちとは一緒に考えたいと思っています。だって今のカタチの学校なんて、しょせんはこの200年くらいの仕組みであって、これが永遠のソリューションではないはずだから。ただ、こんな話も、探究の心がないと「この人、何いってるの?」ってなっちゃう(笑)

その「環境により自然に溶け込んだ教育機能」みたいな話は、めちゃめちゃ面白そうだなと僕も思っていて。

あれ? じゃあもう一度、タクトピアに来ます?(笑)

おっと!?(笑)

2年毎に職場を変えていくのもいいんじゃない?

それは確かに僕的にも理想的な働き方なんですよね。学校って3年サイクルなので、3年毎に違う場所に行くのも面白そう。そういう自由さが現実的に許されるのであれば、順繰りにいろいろな場所に行くんだけど、所属は追手門、みたいなこともやってみたい。飽きなくていいですよね(笑)

“流しの先生”ですね(笑)。さっきの話に近いですが、髙木先生は山の上にある分校にいて、月水金は熊を撃ちながら、火木は先生、みたいな(笑)。それくらい境界線は溶けていっていいんじゃないかな。でも追手門には、それに近い可能性を感じていますよ。

今のカタチの学校なんて
しょせんこの200年くらいの仕組みであって
永遠のソリューションではないはず

(おわり)

INTERVIEWER'S VOICE

髙木草太

“教育”というフィールドで、2年間にわたって一緒に働いたユウさん(長井社長)の教育哲学とも言える部分を改めて聞き出せて面白かったです。話していると新しくチャレンジしたいと思えることがたくさん出てきて、まだまだ聞き足りない思いになりました! 教育を通して自分ができることをポジティブに捉えるための種がたくさん撒かれている記事になっていますので、是非ご一読を!!

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