絶妙な認識の違いに価値観が表現される
ヒトは物理学的には光の波長の違いに基づき、生物学的にはそれを認識する視覚システムの機能に依存しているわけですが、色を付けることの面白さは、多くの側面にあります。
例えば、暖色系や寒色系など、色を使って特定の気分や雰囲気を演出したり、作品のテーマやメッセージを強化することもできます。あるいは、非言語的なコミュニケーション手段ともなり、個性や感性を表現することもできます。
しかし、実際には赤といえば、みんな同じ赤を思い描いているかのように言葉が一人歩きをして、それぞれの持つ絶妙な違いというのは見過ごされてしまいがちです。この絶妙な認識の違いに価値観が表現されると考えています。これを目に見える形で表現してもらおうとしたのが、カラーアートプロジェクトです。
自分とは異なる表現方法に触れるのも楽しみのひとつ
それぞれに存在する演出の違いや感性を表現してもらうことで、一人ひとりに異なるものを表現してみる、あるいは感じてもらうことがカラーアートプロジェクトです。
授業では、自分の好き・大切を108個書き出すことを経て、自分の好き・大切に色をつけるとしたらどうなるか108個のカラーレシピを作成してもらいます。レシピ作成の前には、例えば「バスケット」が好きであるならば、「早朝の体育館で新品のバスケットボールの表面の粒々をひとりで数えている時間が好き」のように、解像度を上げるために好き・大切をより鮮明に言語化します。この行程を経ることで、それぞれが思い描く色にも絶妙な違いが生まれてきます。
カラーパレットが仕上がると、自由度の高い線画に対して、それぞれの好き・大切の108のカラーを使って表現をしてみます。ここで描かれるものは、同じ色であっても同じ意味のものは存在せず、同じものが出来上がることもありません。こうして、完全オリジナルなカラーアートが出来上がります。出来上がったものは、自分にとどまらずにクラスや他クラスも交えて鑑賞会を実施します。
この鑑賞会でも違いに触れるだけではなく、それぞれの作品を時間をかけて味わうことで、作者とは異なるストーリーが鑑賞者の中では生まれていたり、自分とは異なる表現方法に触れるのも楽しみのひとつです。色に対する捉え方の違いや言葉では言い表しにくいことを色を使って表現してみることで自分を表現する幅が広がる。そんな広がりを楽しんでもらいます。
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Students’ Reflections
- 自分は人の絵を見たとき最初にその人がどういう感情を持ってそれを書いたかを考えた。それがキャプションを見て自分の考え感じ方が違った以前に、その絵に対する背景が人それぞれであり、同じ感情でもそこに行きつくまでの道のりの違いでそれぞれの絵に対するイメージが変わると考えた。
- 絵としてあらわしたものを文にするときにスペースが足りないと感じた。これはそもそも用紙の大きさからきた違いなのか、絵が重ねて塗ることができるのに対し字は指定されたかきかたでないと文として伝わらないからなのかはわからないが、少なくとも感情をより小さい範囲に指定していくとより大きなスペースが必要になる矛盾が生まれると分かった。
- 自分の「好き」を探求の時間で追求することで自分の好きなものやことがはっきりと可視化されていったことでいつもスマホばっかり触っているのでもっと好きなことに自分の時間を費やそうと思うようになりました。
- 自分の将来こうなりたい姿の特徴には、単に自分の好きな色だけでなく、自分の好きなことや意思、考え、価値観といった要素から来ていて、それが願望という形で表れているのではないかと思いました。
- 自分は今まで塗り絵をするときやその他のことでは絶対に枠をはみ出したらだめ、おかしくなるとか思ってしまうところがあったので今回の授業はとても新鮮でおもしろかった。 今はまだものすごく考えてからしか表現することができないけれど、いずれ自分の気持ちを感じたまま表現できるようになりたい。