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必要なのは教師のレベルアップ。
前例に頼らず、授業をアップデート。
僕は建築家だった祖父の影響で、小さな頃からずっと一級建築士になるのが夢でした。しかし高校2年生になって、はじめて現場を見せてもらったときに、自分のイメージする仕事ではないことを知り断念します。その結果、目指す道がなくなり、改めて自分の将来のことを考える中で「教師になりたい」という気持ちが芽生えてきました。それは追手門中学に入学したからこそ生まれた選択肢だったと思います。というのも僕は小学校まではスポーツや遊びだけに夢中な子どもでした。そんな中で勉強が楽しいと思えるようになったのは、間違いなく中学時代の同級生と先生がいてくれたから。人生を変えてくれた追手門に、今度は僕が恩返しをする番だと思っています。
日本では『理科』と『技術』はそれぞれ独立した教科として受け入れられてきました。ただ海外ではこの2つは密接な関係があるものとして学ばれています。たとえば理科で電流についての理論を学び、技術でその知識を活用してラジオをつくる、といったカタチです。僕自身もその両方を専攻したことで、2つのつながりの面白さを実感してきました。実際に技術の授業でモノづくりをするときにも、理科的な視点を取り入れるようにしています。科目が分かれているからといって、別のものとして考える必要はありません。特に技術が必修である中学時代に、柔軟な発想で教科を横断しながら、さまざまな体験してほしいですね。
2020年度は教員として挑戦の年となりました。まず『プログラミング』の講習に参加し、1年間をかけて専門的な知識とスキルを習得。もともと技術という教科には情報分野があるので最低限のものは頭に入っているのですが、2021年度からプログラミング教育の比重が高くなるのにあたって、受講が必要だという判断に至りました。さらにそれと並行して、通信制の大学に通い『情報』の教員免許も取得します。これはものごとを体系立てて教えるためのバックボーンがほしかったから。もちろん教師の仕事と並行して勉強するのは本当に大変でした。でも前例や教科書だけに頼らず、授業の内容をアップデートしていくためには、教える側のレベルアップが求められます。これからもそれに向けた挑戦を続けていきたいですね。
柔軟な発想で
教科を横断しながら
さまざまな体験をしてほしい。
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身近な課題を解決へ。
楽しみ、達成感を味わえる授業を。
2020年度は高校で『物理基礎』を教えながら、中学の『理科』も担当。その中で、中高一貫校であるメリットを活かした授業を展開してきました。その1つが、高校生が先生となって中学生に理科を教えるというもの。高校生たちには、それまでインプットしてきた知識を用い、プリントをつくったり、解説動画を撮影したりしながら、中学生に伝わる形でアウトプットし、問題に対する解答チェックまでを担当してもらいました。さらに理解しやすかった点や、逆に分かりにくかった点などのフィードバックを中学生からもらうことで、振り返りも実施します。高校生は教えることでより知識が定着するし、他者に伝わる資料の作り方やコミュニケーション力、改善していく力など、定期テストでは測れない部分を成長させられたのではないでしょうか。
いま教育現場において「課題解決」が叫ばれていますが、生徒たちは課題を見つけること自体が難しいし、自分の生活からかけ離れた社会的な問題を掲げられても、当事者意識が芽生えません。だから僕の技術の授業では「家の中にある家具」の中に課題を見つけ出すことから始めました。技術の力を使って、普段過ごしている家の中で「もっとこうなればいいのに」と思うものを解決へと導いていきます。仮に些細なことであっても、身近なものを解決した方が充実感を得られますよね。今はさらに活動の幅を広げて、『家庭科』との合同プロジェクトも企画中です。それは幼稚園児に喜んでもらうことを目的に、家庭科や技術で学ぶ知識を活かすというもの。お菓子やぬいぐるみなら家庭科の先生が、木工やプログラミングなら僕が教えることができます。生徒自身が手を動かして、楽しんで、達成感を味わえるような授業を展開してきたいですね。
僕が探究の担当に使命されたのは、授業にプログラミングを組み込むという構想があったからだと思います。そもそも「モノづくりのためのスキルと知識を身につけられ、それを課題解決に活用できる」という点において、探究と技術はとても親和性が高い教科なんです。扱う対象となるのは、簡単なウェブサイトやアプリ、ARなどですが、当然ながら授業の時間だけでは実用的なレベルには到達しません。でもなんとなくでも仕組みが分かり、それに触れたことがあれば、生徒たちの選択肢や可能性は広がります。また僕がメインで所属している技術科は、専任の教師が僕だけなので、授業の内容も自分だけの視点で設計していました。一方で探究は何人もの先生が意見を出し合いながらプログラムを構築していきます。だから「あの先生は、あんなアプローチをするんだ!」といった発見もたくさんあって、僕自身が成長させてもらった1年になりましたね。