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旧来の教育とは逆のベクトルで。
与えられることなく、自ら進んでいく。
追手門学院中・高等学校の『探究科』に共感を得て、この学校に来て約3年。現在は教科としての『探究』だけでなく、2022年に開設した『創造コース』を担当しています。このコースで大切にしているのは「自分は何をしたいのか」を見つけて、それを突き詰めさせること。したがって世間的な評価、つまり例えばレベルの高い大学への進学だけが成功だと見ることはありません。もちろんそれもひとつの手段として否定はしませんが、自分がやりたいことが別にあるのであれば、そちらへと向かわせることを意識しています。また創造コースに携わる中で、通常の学校教育とはベクトルの向きが違うということも分かってきました。これまでは「大学に行った方がいい」「そのためにはこれを知っておこう」「テストでこれくらいの点数をとっておこう」など、いわば生徒が知らない情報を教師から与え、その結果として生徒たちに「しなければならない」と思わせるのが通常の流れでした。しかし創造コースではそのベクトルの向きが逆で、大学進学への準備や必要なことは、生徒一人ひとり、まったく違うので、それを知るためにも、まずは自分でやりたいことを見つけるということに重点を置いています。
創造コースでは「中間テスト」や「期末テスト」といった「定期テスト」を行いません。それが故に、他のコースの生徒から「楽でいいね」と思われがち。また教師からも「定期テストもないし、グループワークばかりだけど、大丈夫?」と心配されることもありました。しかし定期テストという“山”がないというのは、常に学習を続けないといけないということ。それに前述の通り、進学に向けた道筋を教師に導いてもらうわけではないので、彼ら・彼女たちの負荷はかなり高いものとなっています。創造コースの生徒の中には、本人が希望して受験に向けた模試を受ける生徒もいますが、他のコースの生徒よりも高い点数を取れるケースも多々見られました。それを見て感じるのは、やはり「学び方」というものが変わってきているということ。大切にすべきなのは、単純に問題を解く力ではなく、自分で設定した目的に対して、どのように取り組むべきなのかを自分で考える力です。創造コースの生徒にはそれが備わっているからこそ、模試などの数字も伴ってきているんでしょうね。
大切なのは自分で設定した
目的に対して、どのように取り組む
べきなのかを自分で考える力。
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教育が様変わりする時代における、
正しい学校のあり方とは?
探究に関しては、もともとそれをやりたくてこの学校に来ているので、とても充実感を覚えています。これまでやってきて面白いと感じたのは、生徒それぞれにやる気のスイッチが入るかきっかけやタイミングがぜんぜん違うということ。それを丁寧に観察しながら、個々の生徒のことを知っていけるのは、探究を受け持つ醍醐味のひとつです。もちろん探究の授業に前向きに取り組めない生徒もいて、「興味がない」と口にする場合も見られます。その発言だけを見ると、単なる“アンチ”なのですが、本当はいろいろな要因が絡まり合って、その言葉が出ているはず。それを少しずつ解きほぐしていけば、どの生徒も必ず変わっていきます。しかもその“解きほぐし”のプロセスは、生徒同士でできること。むしろ私たち教師だけでやろうとするのは、大人の都合による一種のエゴになってしまいます。生徒同士がディスカッションをする中で気づきを与えたり、それぞれの強みを活かし合ったりしながら、やる気のない生徒も巻き込んでいく。教師がやるべきなのは、そのための環境や仕掛けづくりであって、それができれば、あとは生徒だけで進めていけるということが分かってきました。
今はまさに教育というものが大きく様変わりしている時代。これから「知識を与えればOK」「授業を受けさせればOK」といったスタンスは終わりを迎えると同時に、40人に向かって、「教師から生徒へ」という一方通行で行う授業は、オンデマンドの学習ツールに取って代わられます。そうなった時に、学校のあり方はどう変わっていくべきなのか。それを検証していかなければいけません。つまり自分で得られる知識に関しては、学校で学ぶ必要はなく、またその状態において1週間で6〜7時間✕5日という時間を学校に割くのはナンセンスだと考えられる時代は、すぐそこまで来ています。人には得手不得手があり、学びのペースだってぜんぜん違うもの。同じ質と同じ量の学習でも、3日でできる生徒もいれば1週間かかる生徒もいます。その部分を40人でやる授業で担うのは難しいので、学校が提供しているオンラインツールなどを活用して、自分でできることは、それぞれの時間でやってもらうのがいいでしょう。その上で、知識を得たところで留めるのではなく、そこからの深さや広さに着目して、応用して活用、転用するための経験を、学校で、特に探究の授業では積ませてあげたいですね。