TEACHER

2020.09.09UP

【Bettyの五感日記 #1】秘密のミッション

眞鍋綾 探究科

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怪しい動物

ランニングをしていた。家のそばに川があって、その堤防を毎日3キロほど。緑の色が変わったり、季節によって違う鳥がいたり、水の量が増えたり減ったりするのを見ながら走るのは小学生の時の私にとって、朝の楽しみであった。ある日はカモの子育ての様子を眺め、次の日には蛇の抜け殻を見つけ(持って帰って妹に気味悪がられた)、その次の日には死んだ魚を棒でつついたり。その日の発見を担任の先生や理科の先生に報告して、魚や鳥の名前を教えてもらった。

今まで見たことがない動物がいきなり川べりに現れたのは、4年生のときだった。黒くて、たぶんチワワより大きくて、イタチのような長い、太い、尾。明らかに猫でも犬でもタヌキでもない。周りに人はいないのでおそらくペットではない。顔はよく見えないが、耳は小さいようだ。小学生の私にとって、テレビですら見たことのないその動物はなんと、草むらで、もぞもぞ動いていた。・・・そして、泳いだ!犬かきではなく、どちらかというと、鵜が潜るような滑らかな泳ぎ。さっきまでそんなに機敏な動きをしていなかったのに。泳いでいるときは、頭と腰だけが水面に浮かんでいて、2匹の別の動物のようだった。ずっと観察していたかったが、動きが速すぎて見失った。しまった。
 

絶滅危惧種の保護

その日から私の「なぞの動物探し」がはじまった。濡れて黒く光っていたあのかっこいい動物!どんな名前なのか、ペットにできるのか、いきなり現れた新種の動物ではないか、何を食べているのか、興味が尽きなかった。学校の先生に話をしたところ、「これちゃうか」とビーバーの動画を見せてもらった。一瞬これかも!と胸が高鳴ったが、もっと小さく細かった。何しろ色が違う。父のパソコンを使ってビーバーについて調べるとやはり日本にはいないらしい。

つぎに、イタチについて調べた。「イタチでありませんように」と願いながらも、その可能性は高いと思った。黒いやつもいるかもしれないし、なにより特徴がことごとく一致するのだ。「なぞの動物」が、一気にその辺にいる動物であると思うとがっかりだが、どうやらそうらしい・・・。あきらめかけたとき、あの動物とイタチとの決定的な違いを発見した。「泳ぎ方」である。私が見た動物は頭とおしりが黒く浮かんで分離しているように見えたが、イタチは背中が大きく水面に浮いている!イタチではなかった!

「カワウソかもね」と担任の先生が言った。当時カワウソは今ほど人気がなく、聞いたことのない名前だった。すぐ図書室へ行った。コツメカワウソと二ホンカワウソがいて、二ホンカワウソは絶滅したと言われている。一方で、目撃情報もあるらしい。私が見たものは、絶滅した動物の生き残りだったのか?もしそうであれば、すごいことだ!と本を読み漁った。「カワウソの泳ぎ方」。その泳ぎ方、水面からの見え方は、私が見たものと全く同じだった。

忘れられない一言

私はカワウソに関するチラシを作った。もし二ホンカワウソがまだいるとしたら、見つけて、保護せねば。市役所へ行って、写真を見せて、この川にカワウソがいますよと近くに住む人に分かってもらい、環境を守る必要がある。イタチとの違いなどを詳しく書き、図などを載せて分かりやすく作ることにした。できたら学校の先生に見てもらおう、もし良いものであればコピーしてもらえるかもと精が出た。(先生にコピーしてもらえることは当時の私にとって特別な体験だった)朝だけでなく、放課後にも川に寄り、もう一度その動物に会えないかと二ホンカワウソを待ち伏せした。自分で見つけたかったので、友達にも言えない、秘密のミッションだった。良いチラシが出来たので、母に見てもらった。先生からは構成などを褒めてもらい、嬉しくなったので父にも見せることに。仕事から帰ってきた父の一言はあまりに衝撃的で今でも覚えている。「これ、ヌートリアちゃうんか?」

ヌートリアってなんや!と新しく出てきた動物の名前に胸騒ぎがした。とりあえず検索してみた。ネズミの仲間だそうだ。侵略的外来種と言われていて、どうやら増えているらしい。分布は西日本、大阪での目撃情報ありと書いてあり、不穏な空気が漂い出す。「高槻での目撃情報」という記事をおそるおそるクリックした。写真が出てきた。私が見たなぞの動物は、侵略的外来種であるヌートリアだった。私が日々待ちわびていた動物はヌートリアで、環境を守るどころか破壊している主だということが判明した。こうして、秘密の大ミッションはあっけなく終わった。

これが私の最初の探究の思い出です。

「二ホンカワウソ」に対する不思議なあこがれは大人になった今もあって、目撃情報などのニュースが出ると必ずチェックしてしまいます。(笑)

常に公園で(もしくはネットゲームで)友達と遊んでいた私が最初に熱中したカワウソミッション、このときのエネルギーは本当にすごかったと思います。あー、たのしかった!

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