「認める」「待つ」ことの重要性。
自分たちで考え、創る学びのかたち。

  • 追手門学院中・高等学校 / 数学科
    三倉 将希
  • 追手門学院中・高等学校 / 技術・家庭科
    松下 恭平

「自ら学ぶ学校」を掲げ、中学校3年間クラスを持ち上がってきた担任である三倉先生と松下先生。お二人の目線から大切にしてきたこと、生徒たちの成長を語っていただきました。

Q1.まず、担任として大切にしてきたことは何ですか?

「自ら」はこの3年間、常に大切にして生徒たちと接してきました。居心地の良い学年を「自分たち」で作ることは3年間通して生徒と教員と一緒になって考え続けてきました。「自分たちで」を大切にし、様々な場面で生徒たちも私たちも考えることができた3年間だったのではないかと思います。

本当に、「自ら」という部分が大切だと思います。それを促すために、「認める」と「待つ」を重視してきました。
「認める」は、生徒たちが行うことに対して、良いこともそうでないことも、(悪すぎるものは別として)一旦認めるようにしてきました。頭ごなしに叱ると、生徒との信頼関係は築きにくく、ただ教え込むだけでは、生徒の成長につながらないと考えています。また、「待つ」ことも大事だと思います。生徒にはそれぞれのタイミングがあり、発達段階に応じた対応が必要です。無理に次の段階へ進めることは意味がないと思っています。

同意見ですね。まずは、「見守る、言い過ぎない。」失敗もある程度は見守って、自分たちでやりたいことをやらせてみる。その代わり、終わってからの振り返りは大事に。学年全体で「自分たちにとって何が必要か考えなさい」と言ってきました。教員たちは見守って、生徒たち自身に選ばせていましたよね。

あとは、生徒の位置を把握し、適切な声かけをすることが肝心かなと思います。その上で「自ら」について、自己を理解し、安心できる環境の中で主体的に行動することが大切だと思います。この考えをもとに、学年の運営を行ってきました。

結果、学年の3分の2以上が、修学旅行の実行委員に立候補し、自分たちでルールやレクリエーションやしおりなどを考えていったのは印象的でしたね。自分たちで作り上げたいという意識の表れを感じました。学年での指導が一つ形として実ったように思いました。

私は受験指導の時に顕著に感じました。受験勉強はもちろん大事なんですけど、教員が答えを示すのではなく、本人たちに考えさせました。「他校の生徒は3〜4時間受験勉強してる時期やけどみんなはどうなん?」と問いかけたりはしましたが、ここでしかできない経験や今しかできない事を大事に。主体性を大切に。あまり勉強勉強とは言ってこなかったと思います。でも、ある時期になったら生徒たちが自ずと勉強しだした。「待つ、認める、気づかせる」生徒たちが受け身にならない教育の成果を感じました。

Q2.「自ら学ぶ」を実践するための土台とも言える、「安心・安全」の場づくりについて教えてください。

「コース・クラスを超えて」という部分を常に意識してきました。もちろん各コースの授業や特色はありますが、フォーラムや道徳の授業ではクラスを混ぜ、学年全員で「55期」というカテゴリーの中で生活しているイメージです。

例えばフォーラムでは、週1回、朝8時半からアトリエ0にて輪になって瞑想を行います。「今の感情」「その場」に集中する。隣の人や皆と感情をシェアする時間も設けています。メディテーションが基本となっていますが、各担任でメインファシリテーションを回しているので、テーマは毎回変わります。具体的には、ボディースキャン、感謝を伝える、音に関心をもつなどで、自身の身体や環境に目を向けることが多いです。

そういった活動を経て、クラスを超えて色々な価値観に触れていくので、「55期で集まっている空間が落ち着くから好き」「隣の人との意見交換で新たな見方を知れる」などの意見が多いです。私自身、隣になった生徒の見方や感じ方に驚き・興味を持つことが多々あります。それこそ、学年目標として「自分たちで居心地の良い空間を創る」を掲げているので生徒たちもそこは無意識のうちにできているのかなと思います。

Q3.哲学対話について教えてください。

「なんで嘘つかれたら嫌なのに、自分は嘘をついてしまうのだろう。」「動物園の動物と野生の動物ではどちらが幸せか」「本当に人間が動物の幸せを決めることができるのか」「幸せとは」などのテーマを議論していきます。日頃の活動から何を言っても大丈夫な雰囲気作りはできていますね。なぜ相手はそう思うのか。決まった答えのないものに対して色々考え、他の人の意見を聞き議論を交わす時間です。表面的な議論に留まらず、深く考えることができていました。

中2の時にした哲学ウィークは非常に面白かった取り組みでした。様々なテーマを話しましたが、個人的に覚えているのは「船のパーツを全て新しく取り替えてもその船だと言えるのか(テセウスの船)」ですね。対話が進む中で自分の考えがわからなくなり、決められた対話の時間が終わった後にもそのことについて対話が続いていた様子も非常に印象に残っています。

Q4.学びプロジェクトとは何でしょうか?

「自ら学ぶ」を具現化した、集大成的な位置付けのプロジェクトです。自分たちが自ら学びたいものを掘り下げて学んでいきます。絵画、海洋プラ、戦艦、本能寺の変など題材も様々で、夏休み前から取り掛かり、最終的には保護者も迎えて、発表会を行います。「掘り下げて学んだ気づきを違うもので表現する」ところがポイントです。例えば「本能寺の変」を調べた生徒は、「織田信長・明智光秀・徳川家康など、それぞれの視点から観た本能寺の真実は違っていたのだろう」という気づきを一つの形の多面的見え方としてオブジェで表現しました。

個人プロジェクトなので、進めていく上でメンタリング(面談)も大切にしています。担任以外の先生にもサブでついてもらって、複数の視点が入るようにして進めていきました。

Q5.最後に、教え子の成長について教えてください。

目の前のことを自分なりに意味を考えながら取り組むことができる生徒が増えてきた印象です。また、実行委員などに参加する生徒も学年を進む上で増えて来ました。準備から当日までやりきった姿を見て、個人個人の成長、学年としての成長を非常に感じました。生徒に自分たちで考えさせ、教員が全力でサポートする構図に学校全体が舵をきり、新たな方向へ進んでいこうとしています。

自分で選択し、進むときの推進力の大きさを実感します。具体的な生徒でいうと、なんでも「いやだ」、「無理だ」と言っていたり、人前で発表できなかった生徒が様々な経験を積んで自信をつけて、学習に前向きになったり、人前で発表できるようになり、オープンスクールで話せるくらいの成長を遂げてくれた生徒もいます。探究のスライドでも常にある「とりあえずやってみる」というマインドも生徒たちに浸透していると感じます。

まずはやってみて、どうやったら面白いか、工夫・気遣いをしていく。教員たちの姿勢が生徒にも伝わっていっているのかもしれません。教え子たちには、これからも自分で考えることをやめないでハッピーに過ごしてほしいですね。自分たちで考えて、自分たちで創る。対話しながらものを作っていくことを忘れずに成長してほしいです。

中学3年間で培ってきた「考える力」や「自分たちがやってきたこと」に自信を持ってほしいですね。まわりを見て縮こまるのではなく、生き生きと輝いてほしいです。