良い教育とは何だろうか
私学の「当たり前」からの脱却
まず、最初にお伝えしたいことは、何のために我が校は、3つの学びの融合とリフレクションを実施しているのかという大前提の部分です。この手のお話をすると、どうしてもノウハウばかりが取り沙汰されるケースが多いのですが、「なぜ」それをしようとしているのかという部分を非常に大事にしています。
発端は、2014年頃まで遡りますが、この頃、私自身が教育活動に限界を感じ始めていました。それまでの教育に疑問を覚えたのです。根本のところで、「管理・統率することができる=力のある教師」「教師に従順な生徒=良い生徒」「成績や偏差値が上がること=良い教育」というような等式が成り立っていることに疑問を持ちました。もちろん、ある部分では正しいと思いますが、このイコールだけを100%肯定するのも違うと感じたのです。大学受験を目的とした詰め込み型の学習でテスト漬け、課題漬けで学習時間を優先させ、学校が予備校化してしまっていることに違和感を感じました。そういった教育を一番推進してきた人間だったのですが、生徒のリアクションの変化や受け身の姿勢の多さや疲弊を感じ取り、私学の文化・慣習など「あたり前」から脱却せねばと強く感じ、教育のあり方そのものの構造転換を図り始めました。
いざ、学びの構造改革へ
3つの北極星を目指して
まずは今までの「当たり前」を見直してみることからスタートしました。その中でも大きく3つの方向性を掲げました。1つが、学びの苦行化からの解放です。そして2つ目が画一的な方法(ベルトコンベア式・工業型)からもっと個々を尊重する農業型の学びへの転換です。そして3つ目が、さまざまな学び舎をつくることです。
時代が変われば社会も変わります。その時代ごとに求められる教育や学び方、生き方も当然変わってきます。「多様性の時代」「ダイバーシティ」と叫ばれる昨今、学校教育がいちばん画一的なのではと思ったりもします。特に大阪ではその傾向が顕著なように思います。保護者の方からも「大阪の学校は、何を基準にして学校選びをしたらいいのか分からない。どの学校も皆同じようなことばかり言っている。」というようなお声を頂戴することがあります。学校選びの段階で、子供たち及び保護者の方々に多くの選択肢を持ってもらいたい。子供たちが、安心して楽しんで学ぶことができる環境・機会を提供したい。こういった思いからさまざまな学び舎をつくっていきたいと考えています。
4つの学びの融合を緩やかにステップアップ
それが次世代の教育をつくる
前段が長くなりましたが、以上のような背景があり、今お話しした学びの構造改革を成し遂げる指針として、経験→振り返り→気付きを挙げています。アメリカの哲学者コルブの経験学習モデルを教育に落とし込んだものになります。
特に、まずやってみる経験や本物に触れる経験は大切にしたいと思っています。損得勘定抜きにやってみる経験や普段の狭い世界から抜け出して、企業や人に触れる経験、当たり前を疑い、イノベーションを起こす経験、様々な人と協働し多様な価値観に触れて生かす経験などなど。学校に来るからこそできることやご縁を大切に、色々な経験をいっぱいさせてあげたいと思います。そして、やりっぱなしでは勿体無いので、振り返りが重要です。気づいたことや考えたことを主観的に・俯瞰的に振る返ることで、自分や他者を知る機会や自分軸を広げる機会になればいいと思います。リフレクションによって、次の行動に繋がり、また経験→振り返り→気付きのサイクルがぐるぐる回っていくのが理想ですね。最近は、このサイクルにさらに「越境」を付け加えています。自分の殻を飛び出して、自分の限界を超える、クラスや学校を飛び越える、国を超えるなど色々な「越境」を実現していきたいです。
価値創造、いわゆるイノベーションを起こすとは、それが0から1を創り出すことであれ、 既存のやり方を変えることであれ、今あるものからスクラップ&ビルドで組み合わせるにしても、結局は、その人の経験の積み重ねの中から出てくるものだと思うのです。
これを実現するための具体的な手段として、学びの「個別化」「協働化」「プロジェクト化」「リフレクション」の4つが融合して初めて意味があると考えています。しかし、この4つを一気に初めから融合させるのは難しかったので、この先5〜10年かけて緩やかに、しかし確実に変革していこうと考えています。
学びの個別化については、まだまだ導入できていないのが現状です。今は、学びの協働化とリフレクションの融合を全体で取り組み、探究の授業や創造コースの授業を中心に、学びの協働化・プロジェクト化・リフレクションの融合に取り組んでいる状況です。最終的には、学びの個別化を図ることによってアダプティブラーニングと言われるような、自由進度学習・ドルトンプランを目指していきたいです。
子供たちにとっては、偏差値によって、選択肢を狭めていく進路指導ではなく、「どの様な環境で学びたいか」「どのような人たちと学びたいか」といったことも含めて、自分軸で判断・選択できるようにサポートができればと考えています。それが本来の教育の本質なのですから。