美術=考える教科
今までの美術とは違う授業を目指して
美術科では、多くの「感動する」経験を通して、自分の価値観に自信を持ち自分なりの表現を楽しむこと、そして他者と「共創する力」を育むことを大切にしています。
芸術、特に美術において自分の作品を作るというのは「自分なりの視点で 自分なりの答えを作り出す」ということです。他教科と違う点はテストに出る回答のように「絶対にこれが正解!」という答えが作品にはありません。だからこそ、自分の見方・感じ方に自信を持ち、ゼロからイチを生み出すことを恐れずに、自分にしかできない表現に果敢に挑戦してほしいと考えています。美術の授業ではそのベースを作っていけるように授業を展開しています。
授業では、毎年必ず共同制作をテーマにした課題を設定しています。美術の授業って一つの作品を一人で黙々と作るイメージがあると思います。もちろん、個々に自分自身の表現活動と真摯に向き合い、最後まで粘り強く作品を完成させる経験はとても大切です。それと同じくらい、他者の価値観に触れ意見を擦り合わせながら作品を完成させる経験も大切だと考えています。
共同制作のテーマは、この5年間毎年変えています。手順や手法はブラッシュアップしていくことで進化してきました。例えば1年目はクラス対抗で城を作成してもらいました。素材はダンボールのみ。お題は城という単純なテーマですが、ルールは厳密に決めました。「作品のサイズは2m×2m 以上」で対象にした「実際の建造物と寸分違わぬ繊細さ」をクオリティに求めることなどです。
まずは自分の価値観を可視化
他者と共有し、独自の視点を確立する
現代アートなんかを鑑賞すると誰もが一度は「これは自分にも作れる!」と思ったことがあると思います。一見単純な作品に見えたとしても作者がそこに行き着くまでには膨大な時間と研究が費やされているんです。実は美術って考える学問なんですよね。
まずは自分の価値観を深く探究しブレストを行います。ベースとなる自分の価値観を出し尽くしたところからアイデアスケッチの開始です。頭の中にある情報を可視化することで整理しやすくなり、この時はアナログに手を動かして記録することが大切です。次に他者と各々考え探求しつくした価値観を発表するなどして共有します。この時は「共感する」というマインドが目標ですが、まずは自分の中に落とし込んで欲しいからです。共同制作の場合はここから自分と他者の価値観を擦り合わせ、より良い表現になるよう制作を行います。個人制作では客観的な考え方を通して、さらに自分はどうしたいのかを考えることで、自分の作品により深みを増して制作できるようになります。
初めは「今までの美術の授業と違う」「めっちゃ考えさせられる」「めっちゃ発表させられる」と戸惑う生徒もいましたが、学期を追うごとに自分の作品についてはっきりと自信を持って説明できるようになり、作品のことを突然聞かれても答えることができるようになります。他者の作品を鑑賞する際にも、スタートの頃は「塗り方が上手」「絵が上手い」といった個人の能力に対してのコメントが多かったのですが、次第に「ここの表現が自分には思いつかなくて面白い」「魅力的な形をしていてこの作品が好き!」というようにコメントのバリエーションが増し、鑑賞者の視点を重視して語られるようになりました。
「上手な絵ってなに?」
固定概念を壊すことがアートの醍醐味
授業開きの際、「上手な絵ってなに?」この質問を必ずします。「本物を描くことができている写真みたいな絵」と答える生徒がほとんど全員です。もちろんそういった写実スキルを持っていることは素晴らしいですが、「上手」の定義がみんな一緒なんて、誰に教えられたものなのか。本当にあなた個人の考えなのか正直疑問に思います。そこから「自分は絵が下手」「写実的に絵が描けない自分は美術が苦手」「物を作り出すこと表現することが嫌い」といったように子供のうちに自分に呪いをかけてほしくないなと感じています。知らない間に植え付けられた他人の価値観をまるで自分の考えだとする思い込みを壊したいと考えています。固定概念を壊すことができるのがアートの力だと本気で思っています。
とは言え、ゼロからイチを生み出す!なんて格好良いことを言っていますが、生徒たちに自信をつけてもらいたいのが第一です。その経験が自分の進路を自力で切り開く糧になればと考えています。授業を通して自信を持って自分の表現を楽しんでほしいし、またその体験に感動してほしいです。
それともう一つ、アートは実社会に結びつく教科でもあります。考えてみてください。今あなたが座っている椅子も、スマートフォンもお気に入りのコップもありとあらゆるものが誰かが誰かのためにデザインし生み出された作品です。色に拘り形を工夫し視覚的なトリックを取り入れることもあります。それらの多くは有名な美術作品からヒントを得て作り出され、人の生活を豊かにしてきました。
そういったモノづくりの視点を知ることで少しでも多くの気づきや感動を得て人生を豊かにしてほしいと考えています。